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2024.03.13 08:00

【米アカデミー賞】日本の力示すダブル受賞

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 日本映画史に新たな1ページが刻まれた。米映画界最高の栄誉、第96回アカデミー賞で、宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」が長編アニメーション賞、山崎貴監督の「ゴジラ―1.0(マイナスワン)」が視覚効果賞をそれぞれ受賞した。
 日本のお家芸とも言えるアニメーション制作や、長く磨きがかけられてきた特撮映画の分野で、改めてコンテンツ(作品)をつくり込む力を世界に発信した。ファンや業界関係者の支え、励みになる。快挙を喜ぶとともに、世界を魅了する作品がこれからも続くことを期待したい。
 「君たちは―」は、2003年に「千と千尋の神隠し」で受賞歴のある宮崎監督が、引退宣言を撤回し、7年を費やして制作した。
 戦時中の日本を舞台にした異世界冒険ファンタジーで、タイトルの通り、見る人に生き方を問うような哲学的な内容だ。巨匠の集大成と位置づけられた作品は、アニメにとどまらない深い奥行きと、宮崎作品特有の手描きの美しいタッチなどが高く評価された。
 「ゴジラ―」はCGを駆使し、迫力のある映像を作り上げた。資金力のあるハリウッド映画が受賞することが多い視覚効果賞だが、制作陣は創意工夫を凝らし、低予算で米作品以上のレベルを実現した。NHK朝ドラ「らんまん」の主人公2人が主演しており、高知県民にもうれしい受賞だろう。
 ゴジラのシリーズ第1作は1954年。水爆実験の余波で生まれたとの設定には戦争や核兵器に対するメッセージも込められている。
 原爆開発に関わった学者の葛藤を描いた米映画「オッペンハイマー」が7部門を受賞した結果もあわせて、今回のアカデミー賞は、現在の不安定な国際情勢が反映されたという点にも目を向けたい。
 日本関係では、東京を舞台に撮影された役所広司さん主演の「PERFECT DAYS」も国際長編映画賞部門にノミネートされていた。
 日本の映画が高く評価される背景には、人種やジェンダーなど多様性への意識の高まりから、アカデミー会員が国際化したことも影響しているという。一時期、会員が白人男性に偏り「白すぎるオスカー」とやゆされたこともあった。作品が正当に評価される流れは歓迎したい。
 今回のダブル受賞で邦画は勢いがつくことだろう。ただ、日本映画界が抱える構造的な課題もある。
 日本では1本の映画に投じられる製作費が減少傾向にあり、低賃金や長時間労働など製作現場にしわ寄せが及んでいる事例が報告される。若いスタッフの処遇改善を求める声は多い。独立系の作品を多く扱い、映画の多様性を支えてきたミニシアターの数も減っている。
 日本映画は近年、人気作が海外での興行実績を伸ばしており、日本の強みであるコンテンツ産業の一つとして期待は高まっている。映画界全体の底上げのため公的支援の拡充、業界内の新しい連携の在り方などを探っていく必要がある。

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