2024.03.08 20:05
「女性ならではの強み」とあえて言う。男性育休取得率100%の技研製作所(高知市)が、女性社員に期待する理由
技研製作所の前田みか専務。同社初の女性役員を務める(高知市布師田の技研製作所)
「女性ならではの力」「女性の感性」と聞いて何を思い浮かべますか。気配り力、母性、かわいらしさ…。いわゆる「女性らしさ」をイメージする言葉はジェンダーステレオタイプと固く結びつき、今ではあまり良いイメージが湧かない人もいるのではないでしょうか。高知県の建機メーカー・技研製作所は、女性活躍や子育て支援の分野で数々の表彰に輝いた先進企業。女性活躍プロジェクトの方針にあえて「女性ならではの強みを生かす」と記載しています。同社の意味する「女性らしさ」とは―。取り組みを先導してきた前田みか専務に聞きました。
■「女子マネ」はいてもリーダーがいなかった
――2018年から、社内で女性管理職を増やすための活動を始めました。背景は?
前田みか専務(以下前田) 当社は製造業で、女性社員の割合は2割以下。かつては組織図を見ても管理職は全員男性でした。でも、その下に優秀な女性社員たちがいましてね。野球部やサッカー部のマネジャー的な役割、いわゆる庶務業務をしていました。監督とかコーチのポジションに女性はいなかった。何とかしたいと思ったのが始まりです。
――なぜ、そのような状況だったのでしょうか?
前田 会社として、当時は「女性はサブの役割」というイメージが強かったように思います。いわゆるアンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)ですね。
工場長、設計の長、開発の長を女性がやるというイメージが社内になかった。配属されている女性自体が少なかったし、男性だけの部署も多かった。さらに、女性は最初から技術者ではなく、周囲のお世話をする役割の配置になりがちだった。
だから「野球部のマネジャー」はできるんですよね、みんな。次の練習のために道具をかまえておこうとか、ここは片付けておきますから皆さんは行ってください、みたいな。ただ、指示を出したり、計画を立てて進めていくポジションに就いていなかった。
でも私から見て明らかに、うちの女性社員は優秀なんですよ。彼女たちは機会を与えられていないだけで、やってみたら絶対できると思いました。監督やコーチの役割、すなわち「経営」を模擬でもやってみたらいい。経営陣が本気になって取り組んでいる経営課題を、女性社員が解決する。そういうことをやりたいと思いました。
■男女逆転の組織
部門横断で集まって経営課題に取り組む「ポジティブ・アクションプロジェクト」のメンバー(高知市布師田の技研製作所)
――具体的にどう取り組んだのですか。
前田 2018年に始めたのが「ポジティブ・アクションプロジェクト」です。メンバーは部門横断で集めた中堅の女性社員10人。ベテランの男性社員2人にもアドバイザー的役割として入ってもらった。うちの会社で言うと男女の割合が逆転した組織ですね。これまで延べ50人が参加しました。
活動内容は経営課題の解決です。「男性育児休業取得推進」「健康経営」など経営課題を設定して、それぞれチームに分かれて社内施策を考案し、役員の前でプレゼンします。承認を取り付け、予算を付けて、実際に動かすところまでやる。
役員へのプレゼンって普通、上司がやるじゃないですか。実際には自分がやったことでも、上司が経営承認をとる。彼女たちは違います。まさに経営に参画するということをやっていると言えます。取り組みの結果、0%だった男性の育休取得率が21年以降は100%に引き上がり、健康経営優良法人に認定されるなど、企業価値が向上しました。
「イクメン企業アワード2020」受賞を喜ぶ、男性の育休取得を推進したプロジェクトのメンバー(高知市布師田の技研製作所)
前田 います。今は29人中2人。ひょっとしたら、周りが女性ばかりで彼らは恐いかもしれないですね。でも、それは普段、女性社員が感じている感覚と同じです。
女性社員同士は、フラットにわいわいと話しています。普段の社内の会議は男性ばかりなので、数の原理で発言しづらいこともあります。このプロジェクトでは、そういったことはない。性差を意識することなく女性が発言できます。
■「女性ならでは」の強み
――プロジェクトの方針の一つに、「女性ならではの強みや視点を生かす」と書いてあります。この「女性ならでは」とは、どういった意味合いですか?
前田 男性は縦社会の中で生きているでしょう。承認を取るにしても相談するにしても、自由度がない。一方、女性は「これが知りたい」「これを良くしたい」と思ったら、部署の垣根も上下もぽんと飛び越えて、相談をして情報を取ってきます。
教えを請うことに恥ずかしさがないというんでしょうかね。男性はいわゆる「男らしく強く」というイメージからか、「分かりません」と表明することに抵抗を感じる傾向がある。もちろん、みんながみんなではないですけどね。教えた側も、この人に教えて良かった、次も力になってあげようと思う。すごくいい職場環境ができていきます。
――そこに男女差が生じるのは、なぜでしょうか。
前田 おそらく、家事や育児なんかの負担が女性に偏りがちで、忙しいからだと思うんですよ。時間に余裕がない。仕事を手早く終わらせるためには、上下とか、組織の壁とか言っている場合ではないですよね。本当に女性は縦社会の住人じゃないなと日々感じます。自由自在にあらゆるところに行き、自分の欲しい答えを取って来る。すごいな、と。経営にも通じるんですよ。経営はいろんな部門の事情を総括して進めていくものです。
もちろん、男性も経験に応じて変わりますよ。育休を取って帰って来た男性社員は、マルチタスクや時間管理に強くなっていますから。
■「世界がぱっと変わった」
――前田専務ご自身は、技研製作所で女性初の役員ですね。
前田 私は「男も女も関係ない」と、創業者の北村精男(名誉会長)に育てられました。北村は昔から「給料は一緒に払いゆうき、能力があるもんがやったらえい」という考え方。だから私がまだ20代のころ、毎週1回の経営会議に座らされていました。
創業者の北村精男・名誉会長。機械遺産に認定されたサイレントパイラー1号機とともに(高知市布師田、2021年撮影)