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2023.12.04 08:00

【技能実習廃止】選ばれる労働市場目指せ

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 少子高齢化が進み、さまざまな業界で人手不足感が強まる中、外国人材に選ばれる労働市場となることが重要だ。むろん、人権侵害などあってはならない。制度の看板をかけ替えるのではなく、働きやすい環境と共生に向けた地域社会の実現を図る必要がある。
 政府の有識者会議が、外国人材受け入れの新制度に関する最終報告をまとめた。政府は来年の通常国会への関連法案提出を目指す。長年、国内外から「奴隷制度」と厳しく批判されてきた技能実習制度は、創設から30年でようやく抜本的な見直しが進む。
 バブル経済下で中小企業の労働力不足が顕在化し、技能実習は1993年に始まった。だが、人づくりを通じた国際貢献という建前とは裏腹に、実態としては安い労働力の確保策となってきた。
 その乖離(かいり)は人権の軽視につながる。賃金の未払いや暴力、長時間労働、パワーハラスメントに加え、妊娠や出産を報告すると退職を強要されるといった人権侵害が相次いで表面化した。厳しい環境に耐えかね、失踪する実習生も後を絶たず、社会問題になった。
 人権侵害が発生しやすい要因として、制度の問題が指摘されてきた。母国の送り出し機関に手数料を支払うため、多くの実習生が借金を抱える実態に加え、原則として職場の変更が認められない制度が外国人材を職場に縛り付け、劣悪な環境を強いた側面は否めない。
 こうした批判を受けて検討されてきた新制度は、人材の確保・育成を目的とする。3年を目安に外国人労働者を「即戦力」の特定技能水準に育成し、中長期的な就労を促す。同じ業務分野で職場を変える「転籍」を認め、受け入れ先の指導や監督などを担う監理団体の要件を厳格化して人権侵害の防止を図る。
 なお懸念は残る。監理団体などを通じた受け入れの枠組みは維持されるからだ。違法に職業紹介手数料を稼ぐブローカーの存在も指摘される。人権侵害を防げなかった監理団体や悪質な業者の排除が最低限の課題となる。監理団体や受け入れ先を監督する、現行の「外国人技能実習機構」も人員を拡充して支援や保護を充実させるというが、実効性をきちんと担保しなければならない。
 新制度でも「転籍」は引き続き焦点だ。職場の変更が容易になれば、賃金が高い都市部に人材が流れるとの懸念は地方を中心に強い。
 転籍は原則として同じ職場で1年を超えて就労することが条件だが、最終報告では業界ごとに制限期間の延長も認めるなど「玉虫色」の決着となった。だが、職場を選べない仕組みが人権侵害の背景にあるとする指摘を踏まえれば、制限には慎重であるべきだろう。
 外国人材の定着を促すには、賃金面だけでなく、働きやすい職場、暮らしやすい地域社会が求められる。外国人材が増えれば、生活全般を支援する自治体の役割もますます重要になってくる。

高知のニュース 社説

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