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2023.11.16 08:00

【宝塚俳優急死】問題を矮小化してないか

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 所属する俳優が急死した問題で、宝塚歌劇団(兵庫県宝塚市)が記者会見を開き、外部弁護士らによる調査報告書を公表した。遺族側が指摘する長時間労働の影響は認めたものの、上級生によるいじめやハラスメントは認めなかった。
 遺族側の主張を考慮しない事実認定が随所に見られ、遺族側は謝罪を評価しつつも、反発を強めている。若者の命が失われた重大さを踏まえれば、歌劇団側は遺族側も納得できるだけの調査を行い、真摯(しんし)に対応する必要があろう。
 俳優は今年9月末、宝塚市の自宅マンション敷地内で死亡していた。兵庫県警は自殺の可能性が高いとみて捜査している。
 遺族側の弁護士によると、俳優は宙(そら)組所属で下級生のまとめ役を任され、演技指導などに忙殺された。急死まで1カ月間の時間外労働は「過労死ライン」を大きく超える約277時間に及んだという。そこに、ヘアアイロンを押し当てられてやけどを負うといった上級生からのいじめや、叱責(しっせき)などのパワハラが加わり、自殺に追い込まれたと遺族側は主張している。
 調査チームは、宙組の俳優62人や役職員の聞き取りを実施。運営上の安全配慮義務が十分ではなかったことを認め、急死の直前に「精神障害を発病させる恐れのある強い心理的負荷」がかかっていた可能性があると結論付けた。それにもかかわらず、いじめやパワハラの存在は認定していない。
 「劇団と上級生の責任を否定する方向に誘導している」。遺族側が調査結果にそう不信感を示すのも無理はない。事実認定の在り方には、一般的な認識とのずれが目立つ。
 調査は、ヘアアイロンでのやけども故意とは断定できないとした上、ほかの劇団員の供述がなく、公演前日にも上級生が俳優を気遣う言葉をかけたとして、いじめとの見方を否定した。叱責なども証言は伝聞だけだとしてパワハラとは認定せず、指導で「許容される範囲内」と見なした。
 しかし、厚生労働省はパワハラの定義に「身体的、精神的な苦痛を与える」「就業環境を害する」といった要素を挙げる。被害者本人の認識が重要な判断基準となるが、調査チームが遺族側の証言を重視した様子はうかがえない。周囲の聞き取りから確証を得られないという根拠だけでハラスメントを否定する姿勢は、問題の矮小(わいしょう)化を図っているようにも映る。
 歌劇団は厳格な上下関係のほか、家族への相談も「外部漏らし」と見なすほど強い閉鎖性が指摘される。身内の不祥事に関する聞き取りで、どこまで率直な証言を得られたのか。今回の調査には客観性の面でも疑問符を付けざるを得まい。
 来年には110周年を迎える歴史の中で、いつのまにか伝統が現役団員の重荷になっていたのではないか。多くの人を魅了してきたとしても、若者を犠牲にして成り立つような舞台は許されない。

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