2023.11.10 08:00
【旧統一教会会見】提案は被害救済に遠い
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の田中富広会長が、元信者らへの被害補償が必要となった際の原資として、60億~100億円を国に供託する意向を表明した。また、教団にまつわるさまざまな動きに「反省」と「おわび」を述べた。
しかし、おわびは被害者への謝罪ではないと位置付けた。教団に過ちがあれば謝罪しなければならないが、被害者も被害金額も不明確だからという。組織としての責任は認めない考えを明確にした。
政府は解散命令を請求する要件に、民法の不法行為も含まれるとの認識を示し、その組織性、悪質性、継続性を立証する意向だ。教団は、それらとつながる見方をされることを警戒しているのだろう。
教団は解散命令請求について、信教の自由などを挙げて全面的に争う姿勢を示している。信教の自由はもちろん守られなければならない。同時に公益性が問われている。
安倍晋三元首相銃撃事件以来、教団は要請に応じて計664件、総額約44億円を返金したとする。被害の救済が進むことは望ましいが、やはり相当な規模になった。
全国統一教会被害対策弁護団は集団交渉で総額約39億円を教団に請求している。教団はそれを踏まえて供託金額を算定し、「念のため100億円」としたとする。
だが、そもそも国には供託金を受け取る法的根拠がない。教団は制度設計を求めたが、政府は解散命令請求をしていることもあり、提案が実現する気配はうかがえない。
教団は供託案を「不安をお持ちの方のため」と説明する。それならば、被害を訴える人たちと真剣に向き合うことだ。元信者らからは被害者不在と反発の声が上がる。
被害者救済に向けて、教団の財産保全を目指す動きが出ている。野党は保全を目的とした独自法案を提出している。
一方、与党内では保全に特化した立法措置は、財産権など憲法に抵触する恐れがあるとして慎重意見が根強い。海外移転を防ぐ外為法規制強化や訴訟費用支援などを検討し、今国会に提出する方向となった。与野案の内容には隔たりがある。調整できるかどうかが焦点となる。
教団側は保全は不要だと主張し、「解散命令裁判が確定するまでは資産の海外移転は考えていない」と表明した。ただ、教団の総資産額は明らかにせず、信者が現金を持って韓国に渡航し、直接献金している実態を認めた。
弁護団は、潜在的な被害額を含めると1千億円程度の可能性があるとする。教団は、被害請求全てが被害であるとは受け入れがたいとの姿勢だ。救済の実効性を高めるために国会審議の充実が求められる。政界との関係解明も不可欠だ。