2023.11.03 05:00
枡野浩一【芸人になりたくて 55歳歌人の挑戦#4】慣れぬ落語やラップに挑戦 養成所には多様な講義
巨大なカンペを手に堂々と落語を演じる筆者(藤元達弥撮影)=東京都新宿区
歌人の枡野浩一さんが一度は諦めた芸人になるという夢をかなえるため、芸人養成所に入所した。挑戦する55歳の日々を、短歌を交えてつづる連載の第4回。
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〈芸人になる学校へ通うのは芸人的じゃない気もします〉
芸能事務所タイタンといえば、爆笑問題さんやウエストランドさんが所属していることで有名だが、そのタイタンが運営する「タイタンの学校」は比較的「無名」だ。
なにしろ爆笑さんもウエストランドさんも芸人養成所に行ったことがないという「天才」。学校に集まる受講生の多くは爆笑さんたちのことが大好きなのだが、「天才」の側は、「お笑いを学校で学ぼうと考える者たち」のことをもしかしたらそんなには好きじゃないかもしれない。
事実、彼らが学校のことをトークで話すことはあるけれど、「入学するといいよ」的な言葉を聞いた覚えは一回もない。だからこそ面白そうだと、あまのじゃくの僕は入学した。
タイタンの太田光代社長(夫は太田光さん)の考えで、学校には一見お笑いに関係なさそうな講義がいろいろある。自由律俳句や超短編小説を書く講義と、芸人におけるファッションコーディネートを考える講義を最近は受けている。少し前には日本語ラップに挑戦した。書道も準備されているらしい。短歌がないのが不思議なくらいだ。
先日、落語に挑戦する講義が終わった。僕は最終日の最後の1人として「かなづち」を実演し、橘家文吾先生にアドバイスを頂いた。
台本は暗記した方がよいが、どうしても覚えられない場合はカンニングしてもよいという優しいお言葉に甘え、巨大なカンニングペーパーを前夜に作った55歳。老眼に合う字は大きい。
その巨大さ、写真でご覧いただきたい。せめて演技くらいは真剣にやりたいと稽古を重ね、オチのところを大声で頑張ったら皆が笑ってくれた。隠居と定吉を演じ分ける自信がなかったため、定吉は裏声で話す方針に。
先生は苦笑しつつ「ポテンシャルを感じます」と評してくださった。下手でも笑いが生じたら勝ちみたいな側面がお笑いにはあり、そのフェアさに僕は可能性を感じる。(歌人・芸人志望)
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ますの・こういち 1968年東京都生まれ。歌人。2022年「毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである 枡野浩一全短歌集」(左右社)を出版した。23年「歌人さん」の芸名でお笑い芸人としての活動を再スタートしたばかり。
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