2023.10.27 08:00
【性別変更の手術】違憲判断の先が重要だ
これまで深刻な不利益を課されてきた性的少数者の尊厳を守る決定といえる。社会の偏見や差別をさらになくす流れにもつなげたい。政府や国会には決定を重く受け止め、速やかに法改正をするよう求める。
性同一性障害特例法は、医師から性同一性障害と診断された人が家庭裁判所に性別変更を請求する場合の要件5項目を規定している。
問題となってきたのはその一つ、「生殖腺がないこと、または生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」という生殖不能要件だ。実質的に卵巣や精巣を摘出する手術の強制となっている。
しかし、手術は経済的な負担が大きいだけでなく、精神的な苦痛を伴い、後遺症となる例もある。法がそれを求めるのは問題であるとの認識は当然であろう。
申立人は戸籍上は男性、性自認が女性の社会人で、「憲法が保障する個人の尊重や法の下の平等に反する」と主張。女性ホルモン投与による生殖機能減退などを理由に手術なしでの性別変更を求めていた。
最高裁は2019年の別件の審判では、生殖不能要件は社会的な混乱を防ぐ目的があり合憲とした。それを今回4年で改めた。
決定の中で、生命や身体に危険を伴う手術を求めるのは、憲法が保障する身体への侵襲を受けない自由への重大な制約と言及。身体にメスを入れるか、性別変更を諦めるかの「過酷な二者択一を迫るもの」になっているとも指摘した。
日本では04年の特例法施行以降、1万人以上が性別変更審判を受けてきた。その間、海外では手術不要が主流となり、世界保健機関(WHO)なども14年、手術を課すことは自己決定や尊厳の尊重に反するとの声明を発表している。
それからすれば、大法廷の判断は遅すぎる感はあるが、大法廷は判断変更に当たり、社会の性同一性障害への理解が進んでいる点に触れた。国内外の動きが司法を突き動かした面はあろう。
ただ、この先が重要になる。
特例法が求める性別変更の要件には「身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること」とする外観要件もある。これも体が男性の人が女性になる場合には、性器の手術を余儀なくされている。
外観要件も見直さなければ問題は解決しない。大法廷は今回、外観要件については高裁が違憲かどうか判断していないとして、差し戻した。一部の裁判官は外観要件も違憲とする反対意見を付しており、速やかな差し戻し審が求められる。
法改正も自民党保守派の反発で曲折が予想されるが、大法廷による違憲判決は極めて重い。4年で判断を改めた状況を見ても、国会論議の停滞は許されない。