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2023.10.26 08:00

【所得減税】場当たり感に膨らむ疑問

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 物価高騰に賃金上昇が追いつかず暮らしの厳しさが増す。支援策が欠かせないのは言うまでもないが、その実効性を見極める必要があるのもまた当然だ。思いつきのような施策では財政への負担にとどまらず政権の信頼にも関わってくる。
 政府は来週の決定を目指す経済対策に、税収増の還元策として所得税の減税方針を明記する意向だ。与党税制調査会が年末にかけて詳細を詰めることになる。
 これまでのところ、所得税などを1人当たり年4万円減税し、低所得や高齢の非課税世帯に年7万円給付する案が浮上しているようだ。岸田文雄首相は、減税期間は1年になる可能性を示唆した。
 首相は9月下旬に経済対策の策定を表明した際に、成長の成果を適切に還元すると表明した。減税で低迷する政権の浮揚を図りたい思惑が指摘され、衆院解散と関連づける観測も飛び交った。
 一方で自民党内の財政規律派は賛同せず、物価高対策としての即効性には疑問が向けられた。自民、公明両党は経済対策の提言で、所得税減税を選択肢の一つとしたものの明記はしなかった。首相の姿勢が定まらないことも影響したのだろう。
 結局、首相は期限付きの所得税減税の検討を指示する方向となり、先の所信表明演説で取り上げた。こうした動きに、衆参補欠選挙をにらんだ対応との批判が向けられる場面もあった。また首相を増税派と位置付ける向きが一部にあり、それを打ち消したかったとの見方も出ている。これでは対策の意図がゆがむ。
 物価高が生活にのしかかる中、減税自体は歓迎される。だが、そもそも経済対策としての効果には懐疑的な見方が出ている。財政再建との兼ね合いも無視できない。円が信認を失えば一段の物価高を招く。
 今回は減税を打ち出したが、一方で主要と位置付ける施策の財源論は先送りが続いている。
 政府は防衛費に5年間で総額約43兆円を投じる計画だ。財源の一部を法人など3税の増税で賄う方針を決めている。首相は「未来の世代に責任を果たす」と訴え、丁寧なプロセスを経てきたとの認識を示した。
 不安定な世界情勢を背景に、防衛力の整備を望む世論がある。それでも、唐突な増税方針には自民内からも反発が上がった。2024年度以降の適切な時期とした増税は、25年度以降のしかるべき時期への先送りが示唆された。
 少子化対策も3年間の集中期間に年3兆円台半ばを追加投入する方針だが、財源の確保策は先送りしている。実質的に追加負担はないとの主張は、果たして正面から受け止められているだろうか。
 新型コロナウイルス禍や物価高騰で膨らんだ歳出構造は平時に戻すとするが、財政健全化の取り組みと負担の在り方は明確にならない。行き当たりばったりでは対応できないことだ。世論の反発を招きかねない増税や負担増の議論を避けていては理解は深まらない。

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