2023.10.20 05:00
枡野浩一【芸人になりたくて 55歳歌人の挑戦#2】正岡子規似の芸人の卵 頼みもしない助言に閉口
正岡子規に扮してネタ見せに臨む筆者(帰ってきた吉田拓郎撮影)
歌人の枡野浩一さんが一度は諦めた芸人になるという夢をかなえるため、芸人養成所に入所した。挑戦する55歳の日々を、短歌を交えてつづる連載の第2回。
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〈経験のない人からのアドバイス あなたは耳をかたむけますか?〉
芸人の卵として活動していると、頼んでもいないのにアドバイスしてくれる人が続々登場する。
9月7日のライブで「正岡子規のモノマネ」をやった。説明の難しいネタなので、興味のある方はユーチューブ「タイタンの学校チャンネル」をご覧ください。その話をしたら「与謝野晶子のモノマネをすればいいのに」とアドバイスしてくれた人がいた。なぜ?
僕は自分の身体性(丸刈りで、横顔のシルエットが正岡子規に似ている)を利用してネタ作りをした。与謝野晶子には似ても似つかない。
これでも高校の国語の教科書に短歌が載っているくらいはキャリアのある歌人なので、僕に短歌のアドバイスをしてくる素人さんはいない。
まあ、お笑いに関しては何の実績もないし、アドバイスしたくなる気持ちも分からなくはない。
しかし考えてみてほしい。プロでもない人にアドバイスをされて、「わあ、勉強になりました」と感謝する人はいるか。
芸人たちは常に「ネタ見せ」をしている。自分の考えたお笑いネタを放送作家(多くは元芸人。舞台やテレビで笑いを取った経験がある)の前で演じて見せるのだ。どこをどう変えたら、より笑えるネタになるか。そのアドバイスはあくまでも具体的だ。言葉の選び方。保つべき目線の高さ。衣装だって工夫しないと。
僕ごときが考えるネタなど、元芸人の先生なら即興で再現することができる。稽古を重ねた僕よりも高いクオリティーで。そういう人じゃないと「先生」にはなれない。
僕も時々は「先生」になる。短歌の、だけど。
〈この煙草あくまであなたが吸ったのね そのとき口紅つけていたのね〉(佐藤真由美)
という短歌はプロの手による傑作だが、これを素人さんは〈口紅のついた煙草をあくまでも俺が吸ったと言い張る男〉と書いて満足してしまう。
ネタの改善と短歌の推敲は難しさが似ている。(歌人・芸人志望)
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ますの・こういち 1968年東京都生まれ。歌人。2022年「毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである 枡野浩一全短歌集」(左右社)を出版した。23年「歌人さん」の芸名でお笑い芸人としての活動を再スタートしたばかり。
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