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2023.10.20 08:00

小社会 最後の昼餐

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 「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」などのドラマを手がけた脚本家の向田邦子さんに「ごはん」と題した一文がある。中学校の教科書にも載ったから、ご存じの方も多いのでは。

 向田さんは学生の時、東京大空襲に遭った。幸い、自宅の一角は延焼を免れたものの、「次はやられる」と覚悟した父親は、「最後にうまいものを食べて死のうじゃないか」と提案。なけなしの米や芋で家族の腹を満たしたという。

 グルメでも知られた向田さんは、イエス・キリストと12使徒による最後の晩餐(ばんさん)にちなみ、この食事を「最後の昼餐」と記した。甘い中に苦みがあり、しょっぱい涙の味がして、心に最も残った食事と回想している。

 向田さんをはじめ、多くの文人が空襲の恐怖や理不尽さ、家族を失った悲しみを書き残した。そうした体験談は戦後長らく、日本人の身近にあった。日本が平和国家の道を歩んだ背景に、少なからず戦争の記憶があったに違いない。

 パレスチナ自治区ガザの住民は今、食事もままならないようだ。イスラエル軍の空爆で街は崩壊。水や燃料も底を突く寸前と伝わる。病院でさえ、逃げ場にはならない。私たちの奥底にある、空襲の記憶と重なる。

 戦争体験の継承は課題でもあるが、想像力を加えればこの極限状態にも寄り添えよう。犠牲者の拡大防止、停戦への働きかけを強めたい。無辜(むこ)のパレスチナ人が生きて「最後の昼餐」と振り返られるように。

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