2023.10.18 08:00
小社会 谷村さんの旅
谷村さんのキーワードの一つに「旅」がある。原風景は大阪市で過ごした小学生のときの体験。神社のお祭りで獅子頭のおもちゃが欲しくなり、家に帰って母に壊してはだめと言われていた貯金箱を壊した。小銭を握り、また歩いて20分の神社へ。
罪悪感を抱えた「旅」でゴーンという鐘の音に身震いし、夕立にも遭う。やっと家の明かりが見えた。「安心感とか、自分に対する情けなさで僕は泣きそうになった。そのときに感じた思いが、歌づくりのベースになっている」。かつての本紙記事で語っている。
代表曲「昴(すばる)」が十八番の方は少なくないだろう。アジア圏でも愛され、谷村さんは上海音楽学院などで現代音楽を教えて、日中友好に力を入れた。「あの歌が壮大な旅にいざなってくれた」。ここでも旅という言葉が出てくる。
妻が高知出身という縁もあり、高知工科大学の学生歌を作詞作曲したのは既報の通り。〈人は誰も一度だけ その翼拡(ひろ)げて空を飛ぶ〉〈海も空もはるかに 君を包んでいる〉。世界にはばたくよう若者の背中を押しているように聞こえる。
突然の訃報に驚いた。数々の名曲を残し、チンペイさん、今度はどこへ旅に出たのだろう。