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2023.10.15 08:00

【虐待禁止条例案】有権者の目が欠かせぬ

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 仮に可決・成立していたなら、子育て世代の生活はもちろん、保育・学校の現場に大きな混乱をもたらしていたことは間違いあるまい。国政であれ地方自治であれ、議会の多数派が民意からかけ離れて「暴走」する可能性は常にある。有権者の目、チェック機能の大切さを如実に表した事例と言える。他県のことと無関心ではいられない。
 埼玉県議会の自民党県議団が、子どもだけの留守番などを放置による虐待と定めた「虐待禁止条例」の改正案を取り下げると発表した。子育て世代を中心とした反発を受け、撤回に追い込まれた。幼児の放置は危険との問題意識に異論はないとしても、子育ての実態からあまりにかけ離れた内容だった。取り下げは当然の対応だろう。
 改正案は、保護者らが小学3年生以下を自宅などに放置することを禁じ、小学4~6年生の児童も放置しないことを努力義務と規定。「放置」を見つけた場合の通報も義務化していた。自民党県議団は通園バスなどに放置された子どもの死亡事故を例に挙げ、危険防止へ意識改革が必要だとしていた。
 自民党県議団は「不安の払拭を第一に考えた」と改正案を取り下げた一方、「議案の内容に瑕疵(かし)はない」とする。だが「放置」の規定は極めて広範で曖昧だった。問題がないとは到底言えない。
 県議会では、子どもだけでの留守番や公園での遊び、お使い、集団下校なども「虐待」に当たると説明していた。通報義務もあるから、周りの目を気にしながら生活しなければならなくなってしまう。これでは各家庭の子育てに対する政治介入、社会による監視ではないか。
 改正案を検討する際、どこまで当事者や関係者の意見を踏まえたのかと疑問が浮かぶ。子育ての実態を理解しているとは思えない。
 今は核家族化が進み、共働きも多い。絶えず子どもから目を離さないだけの大人がいる家庭がどれほどあろう。条例の求める状況を実現しようとすれば、仕事と子育てを両立するのは極めて困難だ。特定の家族観を押し付けようとしたと見られても仕方があるまい。
 こうした懸念に、県民が異議を唱えるのは自然な反応だろう。インターネット上の署名活動では、すぐに8万人の反対が集まった。県庁に寄せられた千件を超える意見も、ほとんど反対だったという。
 今回は世論が盛り上がり、改正案の取り下げにつながったが、有権者が気づかなければ、そのまま成立していた可能性は高い。埼玉県議会は自民党県議団が半数を大きく超える議席を有する。既に委員会で可決され、近く本会議で採決される見通しだった。
 議会制民主主義では、民意に沿わない政策が通る危険性がないとは言い切れないものの、選挙での低投票率が問題となって久しい。有権者は主権者として政策をチェックし、政治に評価を下す責任があることをあらためて認識する必要がある。

高知のニュース 社説

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