2023.10.02 08:00
【農業基本法改正】産地重視の理念大事に
基本法は、食料の安定供給や農業の持続的発展などを掲げ、「農政の憲法」とも言われる。1999年の施行から20年以上たち、ロシアのウクライナ侵攻や異常気象、世界人口の増加など国際情勢は大きく変貌。食料調達の懸念が増していることを受け、法改正に踏み出す。
言うまでもなく、食は生活の基本であり、安定確保が極めて重要だ。以前の日本は経済力が強く輸入に頼れば事足りたが、もはやそのような国力はなく、世界の食料争奪戦はさらに激化するとも見通される。
この機会に足元を見つめなおし、国内生産力の底上げを図っていく必要がある。
基本法の見直しを巡っては、農林水産省の有識者会議が方向性を答申としてまとめた。政府は検証、肉付けする形で改正案をつくる。
大きな論点にされているのが、凶作や輸入停止といった不測の事態が生じた際、国が農家や食品業者に対して作物転換や流通規制を指示できる仕組みだ。現行法に規定はあるものの運用に制約が多く、より実用的な視点で検討するという。
不測の事態を想定することは大切だろう。だが、私権を制約しかねない施策でもあり、丁寧な議論と周知が前提になる。作物の収穫までに時間を要する農業は機動的な対応に限界があることも考慮するべきだ。
その不測時の対応も含め、やはり食料安保の強化へ基本になるのは、平時の備えにほかなるまい。答申もその重要性を指摘した。
日本の食料自給率は低調な状態が続く。カロリーベースで2022年度の38%は先進国の中では最も低く、30年度の目標値45%には遠い。一方で担い手は減少傾向で、農業を主な仕事とする人は00年の240万人から22年は123万人に半減した。耕作放棄地も増えている。
これらの状況を着実に改善していくほかない。その上で、輸入に大きく依存している小麦や大豆、肥料や飼料などの増産をどう実現していくかが問われよう。
国内の生産基盤強化へ欠かせない担い手の確保には、農業経営が持続可能であることが重要だ。しかし日本の農作物の取引は、生産者や産地よりも流通・消費者側の力が強い傾向があったことは否めず、農業経営が圧迫されていた。
現在も資材や飼料代の高騰が生産者を苦しめている。答申は、生産コストが上昇しても販売価格に転嫁することが難しい状況があるとし、改善する仕組みを求めた。それには販売業者や消費者の理解を深めていく必要もある。
デジタル技術を使ったスマート農業などで生産性を高めることも急務だ。「農政の憲法」に産地重視の理念をしっかり落とし込み、実効性のある具体策を練り上げていきたい。