2023.09.25 08:36
心揺さぶる作品を 映像クリエーター 岡林翔悟さん(37)高知市―ただ今修業中
「見る人それぞれの解釈で感じ取れる動画を作りたい」と話す岡林翔悟さん(高知市南御座の「高知 蔦屋書店」)
今年のよさこい祭りで入賞した「祭屋よさこい踊り子隊」の記録映像。練習風景や踊り子たちの笑顔はじける踊りが、爽やかな音楽をバックに細かなカット割りで35分間映し出される。作ったのは、駆け出しの映像クリエーター。「どうすれば見る人の感情を揺さぶれるか、計算しています」と胸を張る。
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高知市出身。父親がホームビデオ好きで、小学校低学年の頃から自らも家族旅行の様子などを撮影するように。撮った映像を見直して反省するうちに、自然とうまくなっていった。
今の仕事にもつながるよさこいとの出合いは小学4年の時。地元の旭地区のチームで踊り始め、「チームごとに踊りや音楽が違うのが面白くてハマった」。帯屋町筋などでも踊り、「正社員になるより、よさこいを中心に生活したい」と高校卒業後は、アルバイトを転々。2010年結成の祭屋の立ち上げメンバーにもなった。スタッフには子どもの頃の経験から、踊りの撮り方をアドバイスした。
そんなよさこい漬けの生活に転機が訪れる。11年に結婚、子どもも生まれることになり、「よさこいは(人生の中の)2番目にしよう」と決意。14年に高知市の運送会社に就職し、祭屋でも裏方に徹するようになった。
運送の仕事は性に合っていたが、だんだんと「これまでの人生で、自分で挑戦して何かを成し遂げたことってないんじゃないか?」という思いが湧き上がってきた。独立を考え、浮かんだのが映像制作。ネットに上がっているよさこいの映像を見ては「自分ならもっとこうするのに」と対抗心が芽生えていた。
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21年12月末に運送会社を退社。高知市内で結婚式の動画制作を担う会社で修業することにした。これまではハンディカムで撮っていたが、プロが使う一眼レフには触ったこともなく、社長には「よくこれで飛び出して来たな」と笑われた。
いざやってみると社長に「ただ撮ってるだけ。物語がない」と叱られた。「この絵を撮った思いは何?」との問いには答えられなかった。何度もやめようと思ったが、食らいつく。修業中、実力試しに祭屋の踊りを撮影。納得の出来栄えではなかったが、踊り子たちは「すごい!」と喜んでくれた。来年も再挑戦したいと意欲が湧いた。
どんなストーリーを描き、感情に訴える映像を撮るか。1年間たたき込まれた知識と経験は、よさこい撮影にも生きた。今年は祭屋の踊り子だけでなく、支えるスタッフや沿道の観客にもレンズを向け「みんな含めて作品。こういう人たちがいるから楽しめる」ことを表現。結果、「みんなが感動せんわけないやんって、確信できる動画が作れた」。一つ「何かを成し遂げた」実感が生まれた。
現在は「Mystique(ミスティーク) Film(フィルム)」という屋号で自分を売り込み、アマチュア歌手のプロモーションビデオや企業の採用動画作りの声がかかっている。ドローン撮影も勉強中で「照明や音声の人と組み、大がかりな撮影にも挑戦してみたい」と夢を描く。
好きな言葉
「終わりはないですね。これはもう、永遠のテーマです」
写真と文・楠瀬健太