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2023.09.22 05:00

【桜井選手五輪へ】地方の育成スタイル示す

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 優勝を決めると、日の丸の国旗を両手で大きく掲げて笑顔を見せた。その国旗は、高知で応援する人たちが寄せ書きし、約1カ月前の壮行会で手渡したものだった。
 レスリング女子で、香南市出身の桜井つぐみ選手(育英大、高知南高出)が来夏のパリ五輪出場を決めた。3位以内に入れば代表に内定する世界選手権で見事、優勝した。
 世界より国内で勝つのが難しいと言われるほどレベルが高い女子レスリングにあって、熾烈(しれつ)な代表争いを制し、最終関門となった国際大会できっちり切符を勝ち取った。重ねた努力は並大抵のものではないだろう。その歩みに敬意を表したい。
 県勢の五輪出場は、前回の東京大会飛び込みの宮本葉月選手に続いて2大会連続となる。だが、総じて苦戦しており、2000年シドニー大会以降の夏季6大会を見れば、出場は3人にとどまる。
 それだけに、今回の結果を喜ぶ県民も多いに違いない。桜井選手の実力が世界トップ級なのは明らかだ。応援には熱が入るだろう。活躍すれば地域の希望、誇りになる。パリ五輪に大きな楽しみが加わった。
 桜井選手は、有力選手だった父・優史さんの指導で幼少期からレスリングを始めた。中学時代から国内外の大会で好成績を残し続け、パリ五輪では57キロ級の有力候補だった。
 だが、道のりは平たんではなかった。代表選考を兼ねた昨年の日本選手権でライバルに敗退。追い込まれた中、もう一つの選考大会で雪辱を果たし、最終的にプレーオフを制した。いずれも、試合終了直前に劣勢を覆す劇的な逆転勝利だった。
 桜井選手は小学低学年までは成績を残せず、「勝てないところからのスタート」だったという。しかし地道な練習の反復で力をつけ、周囲も「努力の人」と口をそろえる。また、優史さんの指導も「最後まで諦めない」を最優先してきた。
 それを踏まえれば、逆境を乗り越えた代表争いは、むしろ桜井選手の真価が発揮されたと言えるのかもしれない。努力、積み重ねの重要性を示した。地元の人たちの支えも、もちろんあったことだろう。
 桜井家の挑戦は、地方でも五輪選手を輩出できることを示したとも言える。優史さんは、地方の強みにハングリーさ、都会の優位性に技術指導力などを挙げ、それを理解した上で柔軟に対応することが大事だとする。そうしたスタイル、考え方は一つのモデルになるのではないか。
 桜井選手の活躍の背景には、02年高知国体をみることもできよう。優史さんは国体を機に県外から高知に来て、そのまま指導者になり、有力選出を次々と送り出している。
 飛び込みの宮本選手にも、高知国体の縁で根付いた指導者がいた。他の競技でも同様の傾向が見られ、それらを高知国体のレガシー(遺産)と呼ぶことはできる。
 ただ、指導者個人の熱意に頼り切りになっている面があれば、心もとない。競技力向上の公的なサポート態勢も改めて見直したい。

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