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2023.09.19 08:00

【タイ新政権】軍排除の民意を重視せよ

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 タイの政治空白はひとまず解消されたが、国民の意思を十分に反映していない政権の発足には激しい反発も予想される。国情の安定と経済再建を急ぐ必要がある。国民融和へ向けた取り組みが重要となる。
 タクシン元首相派「タイ貢献党」主導の大連立政権が発足した。第1党が外れ、親軍派と連立したことに、失望や戸惑いを感じる有権者は多いに違いない。
 5月の下院総選挙は革新系野党「前進党」が第1党となった。王室への侮辱を罰する不敬罪の条文改正や徴兵制の廃止などの政策を掲げ、都市部の若者を中心に票を伸ばした。貢献党は第2党となり、この2党で下院の過半数を獲得した。
 2014年のクーデターで実権を握った親軍派は大敗した。政治に関与したものの経済の停滞を招いた軍に対する国民の強い不満が示された。親軍勢力の衰退ぶりは鮮明だ。
 タイ政治は、地方農村の低所得層を重視して支持を集めるタクシン派と、都市部のエリート層や既得権益を握る軍を支持する反タクシン派の対立を軸に展開されてきた。06年と14年にはクーデターが起きている。こうした構図を嫌い、変化を強く求める民意が広がっている。
 前進党は、19年の総選挙で躍進したものの選挙違反で解党処分となった政党の後継に当たる。当時はクーデターから民政移管されながら親軍政治が続く状況に国民の不満は高まっていた。民意の受け皿となり、今回もその流れを受け継いだ。
 今下院選の結果を受けて前進党や貢献党が連立合意し、首相候補を前進党党首に一本化した。しかし、首相指名選挙は国軍が任命した上院と下院の合同で実施されるため、両院での過半数は獲得できなかった。
 親軍派は、王室改革への反発が強いとされ、改革に向かう流れを阻止した格好だ。また、06年のクーデターで政権の座を奪われたタクシン氏は、在任中の汚職事件などで実刑判決を受け、海外逃亡を続けた。帰国には国王の恩赦が欠かせず、反王室を掲げる前進党との連携は本質的に難しかったとも指摘される。
 貢献党は連立を解消し、宿敵だった親軍2党を含む大連立を結成し、指名選でセター・タビシン新首相が選出された。タクシン派はクーデターで政権を倒された経緯があり、また貢献党は下院選で反軍政を掲げていた。それにもかかわらず姿勢を転換したことに批判が向けられる。
 閣僚は主要ポストを貢献党が占めたが、親軍派も農業やエネルギーなど利権に直結する4ポストを獲得した。軍排除の民意を受け止めて、透明性のある政権運営に努めなければ混乱を招きかねない。
 タクシン氏は帰国し、国王の恩赦を受けて刑期が短縮された。さらに短縮されるとの見方もあり、本格的な復権をにらむ。支持層は健在で、国政への影響力は大きい。
 一方で大衆迎合路線への反発も根強く、分断の助長が懸念される。民意と向き合いながら、丁寧な政権運営が求められる。

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