2023.08.28 08:40
もう孤独じゃない 「はりまとやばし」の中の人 岡上雄也さん(35)高知市―ただ今修業中
「永遠にみんなの心に生き続けるキャラクターにしたい」と語る岡上雄也さん(高知市はりまや町1丁目)
「高知は一年中、よさこいじゃ」「よっちょれよっちょれ。イェ~イ!」。鳴子を手に怪しく踊る姿に、周囲の目はくぎ付け。そのうち写真撮影を求める人がひっきりなしに集まってきた。
「はりまとやばし」。がっかり名所返上を目的に活動するご当地キャラだ。
活動を終えた「やばし」が、おもむろにかぶり物を脱いだ。「人に笑ってもらえるのって、やっぱりいい」。のぞいた笑顔に充実感がにじむ。
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ずっと孤独だった。
小学生の時から、周りから浮いていると自覚していた。クラスメートの輪に入れず、授業にも集中できなかった。
「自分だけ別の世界にいるような感覚があった。他の人と何か違うな、と」
中学生になるとさらにコミュニケーションが苦手になった。唯一、周りとつながれたのが漫画を描いている時だった。
ただ、それはクラスメートを中傷する内容のもの。数少ない友人にはやし立てられるがまま描いていて、ある日、担任に見つかった。
「『どうせやるなら、みんなが楽しめて喜んでくれるものを作りや』って先生に諭されて。目が覚めた」。それから自分の好きな漫画を描くようにした。
心は軽くなった。けれど、また独りぼっちになった。
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高知海洋高校に進み、「海はもう嫌」と陸上自衛隊に入隊。それなりに充実していたが、任期が終了し、23歳で介護職に転職する。そこでもやっぱり、うまくなじめなかった。
孤独な自分をどうにかしたいと、着ぐるみ姿で帯屋町アーケードを一人、歩くことにした。
笑ってくれる人もいたが、警察官に職務質問されることもあった。YouTubeの再生回数は10回程度と伸びなかった。
止まっているような人生が、コトリと音を立てて転がり始めたのは3年ほど前のこと。
「あそこなら職質されんで」と知人に勧められたのが、高知市北秦泉寺の「じんぜんじゅカフェ」。プロから素人まで、いろんな人が自由にパフォーマンスするイベントを開いており、参加するようになった。
そこで知り合ったのが、カフェ店主の下尾仁さん(54)。演劇やテレビ出演など幅広い活動をしており、10年以上温め続けた「はりまとやばし」の相方として白羽の矢を立てた。
下尾さんが言う。「裏方の仕事を一生懸命やりゆうのを見て、この子は真面目で信頼できるなと。あと、買い物とか送迎とかめんどくさいことをやってくれる。何より、ドタキャンせんのがよかったね」
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活動を始めて9カ月。交流サイト(SNS)を見て県外から訪れる人もいて、今やちょっとした有名キャラだ。通行人からのまなざしはとても温かいという。
好きな言葉
探しに探して、自分の居場所がようやく見つかった。
写真と文・石丸静香