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2023.08.28 08:00

【所得格差拡大】先行き不安が強まる

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 所得の格差を縮め、中間層を育成することは重要な政策課題となっている。不公平感が強まるようでは社会不安を高めかねない。対策の強化が求められる。
 厚生労働省が公表した所得格差に関する2021年調査の結果は、世帯ごとの格差を示す指標「ジニ係数」が前回17年調査からわずかに悪化した。17年調査は36年ぶりに改善していたが、過去最大だった14年調査とほぼ同じ水準となった。
 調査対象は20年の所得で、新型コロナウイルス対策で緊急事態宣言が出されるなど、社会経済活動が停滞した時期に当たる。雇用への影響は大きく、非正規で働く人たちへのしわ寄せが特に指摘された。
 税金の支払いや社会保障給付などを含まない「当初所得」のジニ係数は前回調査から悪化し、格差の広がりを示した。ただ、コロナ下ではあったものの、格差は前回から大幅には悪化していない。厚労省は、政府の支援策で失業率が抑えられ、ほぼ横ばいとの見方のようだ。
 確かに、企業に休業手当の一部を補塡(ほてん)する雇用調整助成金を拡充したほか、コロナ禍で収入が減った人への特例貸付制度などを取り入れた。雇用や生活危機を踏まえた施策は歓迎された。
 コロナの法的位置付けが5類に移行した。社会経済活動の活発化は同時に、先行きへの不安を膨らませているようだ。支援策は縮小している。今後は返済の重荷がのしかかる。企業向けの実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)は返済が本格化して、企業倒産が警戒される。
 物価高も長引き、暮らしが圧迫されている。賃上げはあっても実質賃金はマイナスが続く。家計を切り詰めざるを得ない状況だ。安定的な賃上げの重要性が高まる。
 一方、格差を是正する効果がある税金や社会保障給付を加味した「再配分後の所得」のジニ係数は、近年の水準を保った。厚労省は社会保障を中心とした再配分機能により、格差拡大の抑止に「一定の効果がある」と分析している。
 当初所得のジニ係数は近年、上昇傾向にあるものの、再配分所得ではほぼ横ばいで推移している。格差を埋め合わせる施策を充実させることは重要だ。是正に向き合わなければ労働意欲の減退や消費の縮小、若い世代の出産意欲の減退などを招くことになりかねない。
 国民の負担と受益の在り方の議論を深めていくことが基本だろう。制度への信頼が失われるようでは、格差を抑える効果を維持することが難しくなってしまう。
 税金や社会保険料の割合は上昇傾向にある。少子高齢化で医療や年金など社会保障給付が膨らんでいる。さらに、岸田政権が掲げる防衛費増額や少子化対策の充実などで負担の上昇が想定される。
 しっかりとした制度設計と、十分な説明がなければ混乱が深まる。財源を明確にすることも必要だ。あらゆる施策に通じることであり、ないがしろにはできない。

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