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2023.08.21 08:38

慕われる現場監督に 建設会社勤務 乾すみれさん(26)馬路村―ただ今修業中 

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「安全に、スムーズに工事が進むよう幅広く現場を見て、みんなから慕われる現場監督になりたい」と話す乾すみれさん(北川村久木の犬吠橋周辺)

「安全に、スムーズに工事が進むよう幅広く現場を見て、みんなから慕われる現場監督になりたい」と話す乾すみれさん(北川村久木の犬吠橋周辺)


 魚梁瀬ダム湖に程近い、北川村久木の県道安田東洋線。旧魚梁瀬森林鉄道の施設として国の重要文化財に登録されている犬吠(いぬぼう)橋の修復現場で、高さ約40メートルの鉄橋を見やり、手慣れた様子で測量機器を扱っていた。

 「好きなんですよね、この仕事。外の現場に出るのが楽しくて、自分の性格に合うちゅうなって」

 馬路村魚梁瀬の湯浅建設で、現場監督を務めて3年目。創業以来初となる女性技術者だ。国内有数の降雨量があり、大雪や天候の急変も多くあるが、慣れ親しんだ豊かな自然に囲まれ、はつらつと体を動かしている。

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 生まれも育ちも同村。季節ごとに家族とアユ釣りやユズの収穫、イノシシ猟などを楽しみ、村の自然を満喫してきた。「一度は外で生活してみたい」と高知工業高校時代、高知市内で1人暮らしを経験したが、卒業後は地元に戻り、村役場の臨時職員として3年間働いた。

 21歳の時、事務員として湯浅建設に入社。2年半ほど勤めた頃、社長から現場監督への転身を勧められた。思いもよらぬ提案で、不安が先に立ったものの、高校時代の友人が大工や消防士として男性に交じって活躍している姿を思い出し、背中を押された。

 仕事は一変した。職場は道路改良や治山工事の現場となり、安全や工程の管理、役所に提出する書類作成など、いくつもの役割をこなす日々が始まった。先輩に付いて学ぶ傍ら、資格の勉強にも励み、土木施工管理や特殊車両の扱いができるようになった。不慣れな業務は今でもたくさんあるが、周囲は「まずはやってみいや」と任せてくれる。「頼りにしてくれている」。そんな喜びを胸に、充実した日々を送っている。

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 現場に出て半年がたった頃、大きなミスをやらかした。橋の修復で、くいの高さの基準点を間違えて測量し、そのまま施工。完成間近で発覚し、下請け会社の作業員が休日返上で工事をやり直す羽目になった。

 「まあ、そういうこともある。次から気を付けや」。周りは優しく接してくれたが、帰りの車に乗り込むと、抑えていた涙があふれた。「経費的にも、『自分の今月の給料いりません』と言って済むような額ではなくて…。悲しいというより、悔しかった」。事務仕事ならやり直しが利く場合もあるが、構造物では責任の重さが桁違い。そう痛いほど身に染みた。

 「女やきできんとは思われたくない。任せられたからには、やり切らないかん」。それからは、仕上げた設計書を入念に読み直して確認するという基本動作を徹底した。大失態を経て身に付いたのは、今まで以上の責任感。以来、目を覆うような大きな失敗はなくなった。

 仕事で率いる職人には親ほど年が離れた人もいるが、休日もアユ釣りなどで共に過ごすなどコミュニケーションを欠かさない。「みんなユーモアがあって面白い。だけど、やる時はやる。そんな人たちと働けるのはありがたい」。尊敬と感謝の言葉が、自然と口から漏れる。

好きな言葉

好きな言葉

 「他の女の人がやっていないことをやっている。それは自信になる」。今の目標は、より多くの資格を取り、扱える工事の幅を広げること。「周囲から慕われる人になりたい。中芸一の女性現場監督を目指します」。目が、きらりと輝いた。

 写真・土居賢一
 文 ・深田恵衣

高知のニュース 馬路村 ただ今修業中 ひと・人物

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