2023.08.07 08:00
【防衛白書】危機感あおるだけでは
だが、巨額の経費を必要とする具体的根拠については説明が乏しく、国民の間にある「金額ありき」の疑問に答えたとは言いがたい。十分な説明を欠いて危機感をあおるだけでは納得は得られない。
岸田政権は昨年12月、3文書改定を閣議決定。「反撃能力」(敵基地攻撃能力)の保有や、防衛費の大幅増などを正式な方針とした。
これに伴い、政府は23~27年度の防衛費増額分の財源を、税外収入や税収の上振れ、歳出改革、増税の四つを組み合わせて確保する計画だ。先の通常国会では、税外収入を活用する枠組みを創設する防衛財源法が成立した。
白書は防衛政策の大きな転換に当たって従来の年次報告に加え、政府方針を正当化する役割を負った格好だ。この10年で激変した安保環境を巻頭で特集。3文書を解説する章も新設した。
この中で、不透明な形で軍拡を進める中国が、日本周辺でロシアとの共同活動を強化していることを挙げ、国際秩序への「最大の戦略的な挑戦」などと指摘。「重大な懸念」を示した。北朝鮮についても、ミサイルに核兵器が搭載可能と推測し、「一層重大かつ差し迫った脅威」などと記した。
こうした東アジア情勢に加え、ウクライナ侵攻でロシアと欧米の緊張は高まり、米中対立の激化などで国際社会の分断は深まっている。厳しい安保環境に直面しているとの見方に異論はあるまい。ただ、一定の防衛力強化がやむを得ないという認識と、それに伴う増税への理解には大きな違いがある。
今年3~4月に行われた世論調査では、台湾有事を懸念するとの回答は89%に上ったが、防衛力強化のための増税方針は「支持しない」人が80%を占めた。政府方針の妥当性への疑問、さらなる軍拡競争につながりかねないとの懸念があるのではないか。
そもそも政府は国民的な議論を踏まえることなく3文書を閣議決定した。防衛分野では開示できない情報があるにしても、岸田政権の説明不足は明らかだ。例えば、反撃能力は国是としてきた専守防衛を形骸化させかねない重大な政策変更であるにもかかわらず、白書もその運用や手段となるミサイルの取得数といった詳しい説明を欠いた。これでは政府の方針、巨額の防衛費負担が適切かどうかを判断できまい。
政府が防衛力強化の旗を振ったとしても、安定した財源がなければ絵に描いた餅となる。ましてや国民に新たな負担を求めるのであれば、より丁寧に説明する姿勢が求められる。国民的な議論を避けていては理解は広がらない。