2024年 04月28日(日)

現在
6時間後

こんにちはゲスト様

高知新聞PLUSの活用法

2023.07.31 08:00

【原発の再稼働費】消費者負担は筋が通らぬ

SHARE

 経済産業省が、脱炭素に資する発電所新設を支援する制度の対象に、既存原発の安全対策費を加える検討に入った。電気料金を通じて、消費者から広く回収できるようにするという。
 そもそも大手電力会社は、事故後に厳格化された新規制基準を満たすために巨額の費用がかかることを前提に、原発再稼働を経営判断したはずだ。費用は当然、自社の責任で確保するべきだろう。いまになって国民に負担を求めるとは筋が通らない。撤回を求める。
 2050年に温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするため、経産省は「長期脱炭素電源オークション」を来年1月に導入。再生可能エネルギーや原発の新設、二酸化炭素の排出を新技術でゼロにする火力発電所などを対象にする。電力小売事業者から集めた拠出金を原資に、運転開始から20年間の収入を保証することで投資を促すとする。
 地球温暖化対策で温室ガスの排出抑制は喫緊の課題である。環境への負荷が少ない発電方法は普及を急ぐ必要がある。その趣旨に異論はないとしても、その対象に原発が含まれることには強い違和感を覚えざるを得ない。
 原発は温室ガスを発電段階で排出しないものの、いったん事故を起こせば取り返しがつかない被害を出す。過酷事故から12年を経ても、廃炉作業が遅々として進まない東京電力福島第1原発の現状をみれば明らかだ。事故を経験した国民に「依存度低減」の意識は根強い。
 しかし、政府は原発推進派を中心とした有識者会議で議論を進め、原発の「最大限活用」を盛り込んだ脱炭素化の基本方針を2月に決定。電力業界の求めに応じる形で、5月に改正した原子力基本法では、原発事業者が安全投資と安定的な事業ができる環境を整備する施策を国が講じるとした。
 その具体策がどうして消費者負担となるのか、疑問を禁じ得ない。経産省の審議会でも委員から「投資は事業者の責任で行うべきだ」との意見が出た。当然の指摘だろう。
 事故の教訓を踏まえた新規制基準では、安全対策費が上昇。最新の知見に基づく対策を義務付ける「バックフィット制度」も導入され、再稼働後も新たな費用が生じ得る。そうした前提を投資余力に照らし合わせて、電力会社は再稼働を目指すか、廃炉にするかを判断したのではないのか。経営判断の責任は自社で全うしなければならない。
 福島第1原発を巡っては、たまり続ける処理水の海洋放出開始が迫り、漁業者らは新たな風評被害の懸念を強めている。さらに電気料金も高止まりする状況で、国民が原発再稼働にかかった費用を負担することに理解を示すだろうか。
 さまざまな発電方法がある以上、「脱炭素」も原発推進の免罪符にはならない。政府や電力業界はいまも続く事故の影響と向かい合わない限り、世論との乖離(かいり)は一層進むことになる。

高知のニュース 社説

注目の記事

アクセスランキング

  • 24時間

  • 1週間

  • 1ヶ月