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2023.07.24 08:34

困る前に農家支える 営農指導員 土居英雅さん(26)土佐市―ただ今修業中

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生産者のハウスを訪ね、「僕の目で農家さんを支えられるように」と話す土居英雅さん(須崎市神田)

生産者のハウスを訪ね、「僕の目で農家さんを支えられるように」と話す土居英雅さん(須崎市神田)


 7月中旬、曇り空の蒸しっとした朝。シシトウが負けじと緑濃く輝くハウスの中で、「害虫はおらんか。見えにくいので」と葉を一枚裏返す。たった1ミリほどの虫でも実の汁を吸うと、かさぶたのような傷が付く。額から汗が流れる。

 須崎市や中土佐町、津野町の一部を管轄するJA土佐くろしおに入って7年目。営農指導課の中では最も若い。シシトウやピーマン、花きの生産者を訪ね、栽培技術から経営まで困りごとの相談に乗る毎日だ。

 ◆

 子どもの頃から「農協の人」は身近だった。須崎市内の実家はミョウガ農家。学校から帰ると、作業着でやってきた人がよく父と話し込んでいた。高校卒業後、県立農業大学校へ。「家をサポートできるように」とJA職員を志した。

 まずは先輩と一緒に生産者を訪ね、顔と名前を覚えるのが仕事。出荷された実をチェックした担当者が異変を感じたら、連絡が入り、現場へ直行しないといけない。でも、当時は日焼けした顔がみんな同じに見えた。

 先輩たちはすごかった。シシトウだけでも約150軒。顔だけじゃなく、ハウスの広さや環境、前年同期の収量、過去の病気などのデータを全部、頭の中に入れていた。「僕は地道に」とスケジュール帳にメモし、肌身離さず持ち歩いた。

 2年目にシシトウのサブ担当になったが、生産者の質問には「上司に確認します」。仕事の後、日々30分でも専門書に向かった。1人で巡回するようになった3年目は、教科書通りは答えられるようになった。4年目を迎え、模範解答に加えて「○○さんのハウスではこうなると思います」。3年分の経験や他の生産者のノウハウなど足で稼いだ情報を糧に、自身の考えも伝えた。その頃から「土居君、おる?」と名前を呼ばれ、相談してもらえるようになった。

 ◆

 「指導」は、生産者の生活に直結する。ある新規就農者の1作目、病気の拡大を止められなかった苦い経験をした。シシトウは次々となる実を採るのが遅れると、病気が出やすい。作業が遅れないよう、枝を減らすよう伝えたが、「切るのって勇気がいるんです」。収穫できれば収入になる。決断は生産者。「どんな説得力ある言葉なら選択を助けられるか」。考え続ける。

 JA土佐くろしおが県内で率先して取り組む環境データの活用は、説得力ある営農指導の一つ。勘に頼りすぎず、ハウス内の温度や湿度、二酸化炭素、日射量の数値を見て調節する。篤農家の数値と比較できるグラフにして一緒に見返すと、新規営農者も自分を客観視できる。

 分析が進めば、数値から収量や病害虫の発生を事前に予測できるようになる。「困ってから呼ばれるんじゃ遅い。困る前に、役に立ちたい」

 好きな言葉に「点滴穿石(せんせき)」と書いた。「小さなことをコツコツ続けたら大きなことができる、っていう言葉を探しだしました。本当に農業って、日々勉強。果てしないです」

 植物と自然、人の手がかけ合わさる農業の不思議を、少しずつ解き明かしていく。

 また一滴、汗が光った。

 写真・河本真澄
 文 ・蒲原明佳

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