2024年 04月29日(月)

現在
6時間後

こんにちはゲスト様

高知新聞PLUSの活用法

2023.07.17 08:37

できなくても大丈夫 建設業 小笠原悠人さん(27)高知市―ただ今修業中

SHARE

インドネシア人実習生と働く小笠原悠人さん。眼鏡姿の素朴な風貌から「のび太くん」と呼ばれることも(高知市内)

インドネシア人実習生と働く小笠原悠人さん。眼鏡姿の素朴な風貌から「のび太くん」と呼ばれることも(高知市内)


 高知市の住宅建設現場で、作業員6人がてきぱき働く。基礎に使った鉄の型枠を手際よく外し、トラックの荷台にぽんぽん詰めていく。

 「これから2往復。積載量が決まっているので、一度に全部はいかないんです」。眼鏡をずらし、袖で汗をぬぐうと運転席に勢いよく乗り込んだ。

 同市七ツ渕に工場がある建設会社で働いて8年。型枠解体の現場主任を務め、言葉や文化の違うインドネシア人の技能実習生らを指導する。

 「僕も言葉が覚えにくいので彼らの気持ちがよく分かる。1日一つでいい。一気にできなくても大丈夫。社長に僕が教えられたことなんです」

 ◆

 自分は他の子と違う―。そう自覚したのは小学校に進んですぐだった。授業についていけず読み書きが苦手。軽度の知的障害と診断され、翌年から養護学級に通った。

 高校は高知大付属特別支援学校へ。2年時の職場実習で、今の会社の農業部門でネギの収穫を手伝った。住宅の基礎工事もしていると知り、「ものづくりが好きだし、現場が毎日変わる仕事がいいな」。卒業後の2015年に入社した。

 1年目はネギの収穫と袋詰め作業に汗を流した。2年目に希望する建設部門に移り、型枠工事に携わるようになった。

 最初は、工具の多さに面食らった。「結束線」に「レベル」「インパクト」「チャン」…。何が何だか分からない。型枠の外し方や荷台の詰め込み方にもこつがある。「覚えれん」「無理」と言ってばかりだった。

 失敗もよくした。取引相手の伝言を会社に伝え忘れたり、生コンの単位を間違えて10倍の量が届いたり。

 それでも須藤英正社長(49)は一通りの工程をやらせ、根気よく教えてくれた。難解な設計図は分かりやすいよう、易しい絵に書き直してくれた。挑戦するうちに「できる」が増え、自信につながった。

 やがて、3トントラックの運転を任せられた。急な坂や細い道が続く七ツ渕の工場へ型枠を運ぶ。荷台から飛び出せば、仕事どころか大勢の人に迷惑をかけると教えられ、慎重な運転を心掛ける。レッカー操作もできるようになった。

 「書くのは苦手」と断っていた勤務日誌も率先して記入する。1日の反省を書き、振り返ることが習慣化していった。

 会社では月1回、意見交換会を行う。「意思疎通が苦手。分かってないのに分かったふりをする」と自覚できたのもこの会だった。「少ない人数やから、いい格好しても仕方がない。自分をさらけ出していけ。みんな失敗する。苦手な分野はできる人がこなせばいい」。須藤社長にそんな言葉をもらい、心が軽くなったという。

 ◆

 建設業は人手不足で、外国人スタッフも多い。5月に来日したばかりのインドネシア人実習生3人には「よく寝たか?」「疲れてないか?」と再々声を掛ける。「無理をさせたら事故のもとになるんで」。上司の自覚が芽生えてきた。

好きな言葉

好きな言葉

 かつての口癖「無理」「できない」は、今は「とにかく頑張ってみる」になった。「今日うまくいかなくても、次の現場でやろうと思う。失敗も強みになる。天職だなって思います」

 写真・佐藤邦昭
 文 ・村瀬佐保

高知のニュース 高知市 ただ今修業中 ひと・人物

注目の記事

アクセスランキング

  • 24時間

  • 1週間

  • 1ヶ月