2023.07.24 08:30
奇態の食虫植物「ムジナモ」 牧野富太郎の世界的発見 朝ドラ「らんまん」週タイトルに【連載記事復刻】
ムジナモの花。１時間ほどしか咲かない（２０２２年８月、高知県立牧野植物園で撮影）
朝ドラ「らんまん」第１７週の週タイトルは「ムジナモ」です。モウセンゴケ科の食虫植物です。牧野富太郎博士は、この奇妙で珍しい植物を２８歳の時に発見しました。
それは東京の江戸川のそばを植物採集のために歩いている時でした。用水池に浮かんでいる水草のような植物がありました。牧野博士は直感します。この植物は尋常なものではない、と。すぐさま採集して東大の植物学教室に持ち込みました。さて、その植物の正体は？
過去の連載記事を復刻しましたので、ご覧ください。この珍しい植物「ムジナモ」はどのようにドラマで描かれるのでしょう？
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連載企画『淋しいひまもない 生誕１５０年 牧野富太郎を歩く』（２８）
この奇妙な植物は一体何だ？
牧野富太郎が採ってきた植物標本を見て、思い当たることのあった東大の矢田部良吉教授が文献を調べると、果たしてそれが世界的にも珍しい食虫植物「ムジナモ」であることが分かった。当時は欧州、インド、オーストラリアの一部のみで確認されている希少植物だった。
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江戸川の河川敷に立つムジナモ発見の地碑（東京都江戸川区）
ところで、「ムジナモ」の「ムジナ」とは主にアナグマのことを指す。その植物は獣の尾のような形をしていて、しかも虫を食べるということから、牧野が「ムジナモ」と和名を付けた。牧野は「ムジナモ発見物語り」と題した随筆で、こんなふうに描写する。
〈このムジナモは緑色で、一向に根はなく、幾日となく水面近くに浮（うか）んで横たわり、まことに奇態な姿を呈している水草である。一条の茎が中央にあって、その周囲に幾層の車幅状をなして沢山な葉がついているが、その冬葉には端に二枚貝状の嚢（ふくろ）がついていて、水中の虫を捕（とら）え、これを消化して自家の養分にしているのである〉
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昨夏、東京調布市の神代植物公園で特別企画展「牧野富太郎生誕１５０年記念展」が開かれていた。
栽培したムジナモの展示もあって、私も初めて見ることができた。なるほどに異様な姿の水草であって、やはり植物のくせに虫を食べるというのは、見るものに不気味な思いをさせるものだった。
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「植物学雑誌」の創刊を企て、精緻な植物図を掲載した「日本植物志図篇（ずへん）」を自費出版。続いて「ヤマトグサ」の学名発表、さらには「ムジナモ」の世界的発見があった。
牧野は得意の絶頂にあった。
しかし一方で、やられた、と感じている矢田部教授がいた。若い牧野の才能と行動力を恐れた。
「ムジナモ」発見直後のことだった。ある日突然、矢田部は牧野に告げた。
〈しかるにこの時になって、矢田部博士の心が変わって来た。「実は今度自分でこれこれの出版をすることになったから、以後、学校の標品や書物を見ることは遠慮してもらいたい」。こういう宣告を下された〉（自叙伝）
牧野は困惑し、呆然となった。〝破門宣告〟であった。
納得できない牧野は、矢田部教授の自宅まで訪ねて懇願した。
〈今日本には植物を研究する人は極めて少数である。その中の一人でも圧迫して、研究を封ずるようなことをしては、日本の植物学にとって損失であるから、私に教室の本や標本を見せんという事は撤回してくれ。また先輩は後進を引き立てるのが義務ではないか〉（同）
が、こうした訴えも冷たい拒絶で退けられた。
〈私は大学の職員でもなく、学生でもないので、それ以上自説を固持するわけにはゆかなかったので、悄然（しょうぜん）と先生宅を辞した〉（同）
かつて歓待も受けた矢田部宅から、うなだれながら帰る牧野青年の背中を見るような思いがする。（2013年1月23日付、社会部・竹内一）
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