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2023.06.19 08:34

強さと優しさを伝えたい 少年柔道クラブ監督 吉村敬済さん(29)宿毛市―ただ今修業中

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寝技の見本を子どもたちに示す吉村敬済さん(宿毛市桜町の市立武道館)

寝技の見本を子どもたちに示す吉村敬済さん(宿毛市桜町の市立武道館)

 「集中!」と大きなかけ声に合わせ、バシッ、バシッと受け身を取る音が響く。黄色に青に緑、いろんな色の帯をぎゅっと締めた子どもたちが稽古に励んでいた。現在は、園児から小学6年生までの25人が所属する宿毛少年柔道クラブ。自身も通った地元クラブの監督を5年ほど前から務めている。「柔道は楽しい。もっと好きになってほしい」。畳の上で魅力を伝える。

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 小学1年の時、シドニー五輪で男子60キロ級の野村忠宏さんらが鮮やかに勝ち進む姿にくぎ付けになった。「強くなりたい」。一気に柔道にのめり込んだが、なかなか勝利に恵まれなかった。

 「とにかく体が小さくて」。四万十市の中村高校に進学した頃は身長155センチ、体重50キロほど。それでも「今は勝てなくても必ず芽が出る」という指導者らを信じた。体の成長とともに戦績は上向き、四国の大会も制覇。自信が芽生え、「全国でも通用する選手に」と国際武道大(千葉)に進んだ。

 しかし、関東の強豪選手たちを前に思うような結果を残せない日々。昔のように、心から柔道を楽しめなくなっていた。「もう十分やったはず」。卒業後は、高知に戻り、柔道とは無縁の仕事に就いた。

 道着に袖を通すことなく1年が過ぎた頃。四万十市での仕事を終えた帰り道、宿毛市の道場にふらりと立ち寄った。子どもたちの練習相手をしていると、はっとするものがあった。

 「教えたことを素直に聞いて、どんどん吸収していく」。強くなりたいというひたむきな姿は、かつての自分と重なった。道場に足を運ぶ頻度が増えた。そのたび成長していく子どもたち。「俺も本気になろう。これからは指導者として」。故郷に腰を据えようと、26歳で宿毛市役所に転職した。

 指導経験はゼロに等しかったが模索を続けた。これまで受けてきた指導を振り返り、技の動きを一つ一つ言葉にしながら確認。試行錯誤を重ねながら、子どもたちに伝えてみた。「今日のは違った」。うまく指導できなかった日は一人、練習後に反省会をする。日記を付けて、自分と向き合う時間もつくった。

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好きな言葉

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 少子化に加え、多種多様なスポーツが楽しめる時代。宿毛柔道クラブも在籍者が10人以下に落ち込んだ時期もあった。「入会を待つだけでは駄目だ」と自らきっかけづくりに動き、交流サイト(SNS)に練習や大会の様子を投稿し、体験会も開催。道場は、少しずつにぎわいを取り戻した。

 クラブで重視するのは基礎練習。「選手のピークは、高校生から20代半ば。目の前の結果ばかりにとらわれず、地道な練習を大切にしてほしい」。一方で、「長く続けるには勝つ喜びを味わうことも大切」。教え子の個性を大事に、一様の指導はしない。クラブを長年率いた浜田富久代表(69)は「一人一人に合わせた指導や声がけができている」と世代交代を喜ぶ。

 6月のある日。2時間の練習の締めくくりに子どもたちに伝えた。「強くなるのと一緒に、人にも優しくできように」。挫折もあった競技人生だから伝えたい。学んでほしいことは、強さだけではない、と。

 写真・森本敦士
 文 ・坂本 出

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