2024年 05月02日(木)

現在
6時間後

こんにちはゲスト様

2023.06.18 05:00

【理解増進法成立】法的な権利擁護を急げ

SHARE

 LGBT理解増進法が参院本会議で可決、成立した。焦点だった「性自認」の表現は、与党と一部野党による修正で、英語の「ジェンダーアイデンティティ」に変更された。性自認とも、心と体の性が一致しない障害名として使われる「性同一性」とも訳される。
 文言を曖昧にして伝統的家族観を重視する保守層に配慮した分、差別の解消を求める表現は後退した。当事者からは「かえって偏見を助長する」と批判が相次ぐ。法的な権利擁護への一歩としても心もとない内容と言わざるを得ない。
 性的少数者の権利擁護へ政治の動きは鈍い。超党派の議員連盟が法案で合意したのは2021年だったが、自民党保守派が異論を唱え、提出が見送られていた。
 再び法整備へと動きだしたきっかけにも消極姿勢がにじむ。岸田文雄首相がことし2月、同性婚に関して「家族観や価値観や社会が変わってしまう」と答弁。直後に首相秘書官の差別発言も飛び出した。
 そこに「外圧」が加わる。先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)を前に、欧米など15の在日外国公館がビデオメッセージで政府に差別禁止の法整備を迫った。G7で唯一、権利擁護の法令がない現状に、国内外の包囲網は狭まった。
 与党は理解増進法案をサミット前日に駆け込みで国会に提出。与野党の計3法案が入り乱れた。会期末が迫る中、与党が日本維新の会、国民民主党の案を丸のみした形で成立にこぎ着けた。こうした経緯に差別解消への強い意思はうかがえない。
 内容も大きく後退した。超党派議連の合意案にある「差別は許されない」との文言は、「不当な差別はあってはならない」に変更。当事者の感覚を尊重した「性自認」の表現も修正を経て、英語のカタカナ表記になった。
 「全ての国民が安心して生活できるよう留意する」との規定も、性自認に反対する保守層への配慮なのは明らかだ。当事者らには、性的多数派が認める範囲内でしか少数派の人権や尊厳は守られないのかという懸念もあるようだ。国会での議論がむしろ、根強い差別と偏見を印象づけてしまったのではないか。
 国会が迷走する一方で、司法の目は厳しい。同性カップルが国に損害賠償を求めた訴訟で、同性婚の法制度がない現状を「違憲」「違憲状態」とする判断が続き、国会に対応を強く促している。
 各地裁は背景として、近年の理解増進を指摘する。3~4月に行われた世論調査では、同性婚を「認める方がよい」との回答が7割を超えた。同性カップルを婚姻相当と見なすパートナーシップ条例も300以上の自治体が制定する。
 社会は既に、同性カップルへの差別禁止や法律婚に伴う権利の擁護を求める段階に入りつつある。その要請に対応できない現状を政府、国会は重く受け止めるべきだ。差別のない社会に向け、法整備をさらに加速させる必要がある。

高知のニュース 社説

注目の記事

アクセスランキング

  • 24時間

  • 1週間

  • 1ヶ月