2024年 04月28日(日)

現在
6時間後

こんにちはゲスト様

高知新聞PLUSの活用法

2023.05.26 08:00

【防衛財源法案】多面的な検討が足りない

SHARE

 厳しくなる安全保障環境と向き合うのは当然だが、防衛力を強化しても安定した財源がなければ維持はできない。明確な方針を示して国民の理解を求めることが重要で、説明と活発な論戦が欠かせない。
 防衛費増額の財源を確保する特別措置法案は衆院で可決され、参院での審議に入った。終盤国会の重要な論点となる。
 法案は、税外収入を集めて複数年度にわたり防衛費に充てる「防衛力強化資金」の創設を定める。政府はこれに加え、歳出改革や決算剰余金を組み合わせて防衛費を捻出し、それでも不足する分を増税で賄う方針を示している。
 増税に関して政府は、所得税増税は東日本大震災の復興財源に充てる復興特別所得税を転用し、復興税は課税期間を延ばして帳尻を合わせる方策を描く。また、たばこ税や法人税の増税を想定する。
 しかし、法案には増税の規定は直接盛り込んでいない。岸田文雄首相は、「われわれの将来世代への責任」と位置付けて安定財源へのこだわりを示しつつ、実施時期の判断は先送りした。野党は、法案は増税を前提としているなどと追及している。法案の早期成立を目指す自民党からも増税には異論が上がる。
 財源には安定性や持続性が不可欠だが疑問が向けられる。税外収入には国有財産の売却など一度きりの財源が含まれる。今後5年間より先にも継続的に必要となる資金をどう手当てするのかは判然としない。歳出改革の具体策も明確ではない。
 また、一般財源である決算剰余金の活用はほかの政策の財源にも影響するため、実質的に国債で賄われることになりはしないかと危惧される。恒久財源としての裏付けが不十分では混乱を招きかねない。
 岸田政権は昨年末に国家安全保障戦略など安保関連3文書を改定し、防衛力の抜本強化を打ち出した。反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有に踏み込み、防衛費は大幅に増額する。今後5年間で投じる額は43兆円程度を想定し、上積み総額は17兆円規模と見積もる。
 中国が覇権主義的な姿勢を強め、北朝鮮は核・ミサイル開発に突き進む。ロシアはウクライナを侵攻して主権と人命を顧みない。こうした安保環境を受けて防衛力強化を求める国内世論は強まっている。
 しかし、予算規模ばかりが先走る状況に不安感は拭えない。そもそも防衛力整備の在り方を巡る説明が不足したままだ。首相は専守防衛の堅持を表明してはいるが、形骸化の懸念が強まっていく。
 財政規律との兼ね合いも無視できない。財政の柔軟性が失われては、少子化や物価高など山積する政策課題への対応が難しくなる。多面的な検討が必要だ。
 衆院審議は、財政金融委員長の解任決議案の提出、採決などで通過がずれ込んだ。参院での審議は会期末をにらみながらの攻防となる。時間の制約はあっても議論を深めることが国会の存在感を高める。

高知のニュース 社説

注目の記事

アクセスランキング

  • 24時間

  • 1週間

  • 1ヶ月