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2023.05.23 08:40

「世間はコロナが怖くなくなった」医師の懸念 ―コロナが問うもの 検証・高知の3年(1)

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コロナ病棟で患者に対応する看護師(2022年11月、近森病院提供)

コロナ病棟で患者に対応する看護師(2022年11月、近森病院提供)

 2021年夏。新型コロナウイルスは、変異したデルタ株が流行していた。近森病院(高知市)の石田正之医師(48)は、何人かの入院患者から同じ言葉を聞いた。

 「もう死ぬんですよね」

 基礎疾患のない若い人も肺炎になり、重症化する事例が起きていた。息苦しさとともに悲観を深める患者に、石田医師や看護師は繰り返し伝えた。「大丈夫。今を乗り切れば必ずよくなっていきますから」

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 20年2月、県内で初めて感染者が確認されてから3年余りが経過した。

 この間、ウイルスの性質も人々の意識も大きく変わった。「コロナの景色は全く違うものになった」。最前線で治療に当たる多くの医師がそう感じている。

 「初めは対症療法。そこから徐々に治療法が確立して。偏見がなくなるのに3年かかるんですね」。県内最多の1100人を超す入院患者を診てきた、高知医療センター(高知市)の医師の1人が漏らす。

 当初、未知のウイルスに社会も医療界も手探り状態だった。恐怖は過剰反応と偏見を生み、医師らは治療外の対応にも追われた。

 「医療センターにはコロナがおるき行かれん」。そんな言葉を聞いてきた。ある患者は退院後、会社から出勤を拒否された。医師は会社に直接電話し、「100%うつさないので戻してあげてください」と訴えないといけなかった。

 医療センター内も混乱した。検査やリハビリ、掃除など、多くの部門が感染への恐れからうまく機能しなくなった。医師は治療の合間に勉強会を開き、その時点で分かっているウイルスの情報を共有した。

 「きちんと防御すればうつらない。正しく恐れてほしい」。医師は繰り返し訴え、職員の不安を取り除いていった。

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 そして今。新型コロナは季節性インフルエンザと同じ、感染症法上の「5類」へと下がった。あれほど恐怖と偏見が渦巻いていた社会が、一気に真逆に振れたような感覚を医療センターの医師は感じている。

 理由の一つが、オミクロン株の登場で、入院が必要となる患者層が様変わりしたこと。重症になるのは、基礎疾患のある人か高齢者が中心になり、若い人は感染してもほぼ軽症に。「私たち医療者と世間の感覚が逆転しましたよね。世間はコロナが怖くなくなった」

 ただ、多くの医師はコロナとインフルエンザは違うと見立てる。石田医師によると、致死率はインフル並みに下がったが、感染力はコロナの方が強い。感染者数が再び増えれば、高齢者を中心に、重症者や死亡者の数も隆起する。

 「5類」移行で、生活は平時に戻れますか?

 「あえて言うなら、ノーです」と石田医師。こう続けた。

 「コロナは5類になったから消えるわけではない。細菌やウイルスは人間より早く地球に誕生し、過酷な生存競争を生き抜いた。彼らを簡単にコントロールできないと、この3年で痛感した。謙虚な立場で感染対応を考えないと、また足をすくわれる」

 取材した医師は、流行の次の波は必ず来ると口をそろえる。次は、第8波よりも規模が大きくなる可能性も指摘されている。

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 目に見えない新型ウイルスの登場により、世界中がおびえ、振り回された3年余り。その影響は、高知の暮らしの隅々まで及んでいる。コロナの「禍」は私たちの何を変えたのか。5類移行を節目に、あらためて考える。(報道部・石丸静香)

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