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2023.05.22 08:38

ベストなビール造りを ブルワー 浜田雄太郎さん(31)香南市―ただ今修業中

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「ぶれないビールの味を目指したい」と語る浜田雄太郎さん(香美市香北町橋川野の高知カンパーニュブルワリー)

「ぶれないビールの味を目指したい」と語る浜田雄太郎さん(香美市香北町橋川野の高知カンパーニュブルワリー)


 香ばしい麦の香りが漂う、朝の工場内。あらかじめ仕込んでおいた粉砕済みの麦芽を投入口に入れ、湯と混ぜ合わせる。ポンプを動かすと、ろ過された麦汁が釜の中を満たしていく。

 「ろ過のスピードが速すぎると、味にムラが出る。気を付けないと」

 湯気の立つ釜の中をじっと見つめ、操作盤でポンプの回転数をコントロールする。香美市の物部川のほとり、「TOSACO」の銘柄で人気を集めるクラフトビールの醸造は、職人技によって支えられている。

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 高知市出身。やりたいことは大学で見つけようと考え、広島大学工学部に進んだ。入学して1年が過ぎたころ、広島にある国の研究機関、酒類総合研究所を見学する機会があった。どうやって酒ができる? 酵母、酵素って何? 知りたいことが次々と頭に浮かんできた。

 3年時に日本酒を研究するゼミを選択し、大学院の修士課程まで研究を続けた。取り組んだのは、糖分やタンパク質を分解する麹(こうじ)菌の力の数値化。醸造した酒も分析し、甘さや辛さへの影響を調べた。

 修了後は帰郷し、2016年に県内の酒造メーカーに就職。出来上がった商品の検査や、ほかの社員が考案した新商品の試作に携わった。仕事をするにつれ、新たな思いが膨らんだ。

 「企画段階から関わって、酒造りしたい」

 転職を考え、ニュースで取り上げられていた香美市のビールメーカー、高知カンパーニュブルワリーを訪れた。住宅街にある小さな工場に入ると、川や畑のそばにあるビール工場やお店が描かれた一枚の絵が飾られていた。代表の瀬戸口信弥さん(36)が会社を起こす前、妻と描いた将来像。「この人と一緒にものづくりをしてみたい」。その日のうちに面接を受け、地ビール造りの仲間に加わった。

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 麦芽を粉砕し、糖化させた後、ろ過して煮沸。冷却して発酵させる。それがビール醸造の大きな流れだ。

 初めは失敗もあった。入社して3カ月がたった頃、釜で麦汁を加熱する糖化の作業と並行し、発酵タンクからポンプで麦汁を移そうとした。すると、ポンプに空気が入り、動かなくなるトラブルが発生。復旧にやきもきしていたら、釜をほったらかしにしてしまっていた。「もっと作業効率を良くしたいと、焦っていたのかもしれません」。無理やり作業をねじ込むのではなく、冷静に、着実にこなすことの大切さが身に染みた。

 瀬戸口さんとともに、県産食材を副原料としたビールの開発にも取り組んでいる。3年前に初めて関わった榧(かや)の実を使った商品作りでは、ヘイジーと呼ばれる濁りのあるビールを提案。口当たりを柔らかくして榧独特の苦みをうまく生かしてみせた。瀬戸口さんは「彼とはいつもレシピで会話している感じ。思いが伝わってくる」と信頼を置く。

好きな言葉

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 今後はコーヒーを使った黒ビールも造ってみたいといい、「無数にある組み合わせの中から、高知らしいベストなビールを造りたい」と意欲を燃やす。

 物部川のそばにある工場には、昨年移転したばかり。あの日見た絵と似たこの場所で、新たな地ビールを生み出していく。

 写真・佐藤邦昭
 文 ・福井里実

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