2024年 05月01日(水)

現在
6時間後

こんにちはゲスト様

2023.04.16 08:00

【演説会場の爆発】教訓は生かされているか

SHARE

 いかなる理由であれ、暴力による言論の妨害は許されない。選挙演説に臨む政治家と、その政治的主張を聞いて判断材料とする有権者を危険にさらす犯行は民主主義の基盤を揺るがす行為である。
 きのう、岸田文雄首相が衆院和歌山1区補欠選挙の応援のために訪れていた和歌山市の雑賀崎漁港で、街頭演説を始める直前に筒状のものが投げ込まれ、爆発した。
 首相は演説を取りやめ警護官(SP)に警護されて退避し、無事だった。警察官1人が軽傷を負ったものの、集まった聴衆にはけが人がなかったのは幸いだった。
 しかし、現段階の情報では爆発物の性能や威力によっては多くの死傷者が出る惨事になりかねなかった印象も拭えない。
 爆発物を投げ込んだとみられるのは兵庫県在住の24歳の男で、その場で取り押さえられ、威力業務妨害容疑で現行犯逮捕された。なぜ、このような暴挙に至ったのか。動機や爆発物の入手経路など警察による背景の解明が急がれる。
 政治家への襲撃を巡っては昨年7月、安倍晋三元首相が参院選の応援で訪れていた奈良市で街頭演説中に銃撃され、死亡した。国民に衝撃を与えた事件は記憶に新しい。
 民主主義を揺るがす凶行を防げなかった警察庁は、都道府県警の責任で警護を実施する仕組みには限界が生じているとして要人警護の見直しに入った。事件を契機に制定した警護要則に基づき、都道府県警が作成した警護計画の事前審査などを進め、関与を強めている。
 昨秋には要人警護と皇室警衛に専従する「警備2課」も新設した。人員の拡充、ドローンや人工知能(AI)といった先端技術の活用の検討も進め、さらなる体制強化を図っている。
 ただ、今回の事件は、不特定多数の人が集まる選挙戦の街頭活動、演説会場の警護の難しさをあらためて突きつけたと言える。
 懸念されるのは、元職に続いて現職の首相が標的になったとみられる事件を受けて、選挙における政治活動が萎縮することだ。
 街頭での活動は、集票のため多くの市民と近い距離で接したい政治家と、政策や主張を受け止め、判断する有権者多数が直接つながる貴重な機会になる。民主主義にとって不可欠な活動であり、過剰な警備で政治家と有権者の距離が開きすぎることも好ましくあるまい。
 そうした観点から、いかに安全を確保できるか。安倍氏銃撃事件の教訓は生かされているか。犯行の兆候はつかめなかったのか。現時点では不明な要素が多いが、警察当局は当面の捜査とともに、検証作業にも全力を挙げる必要があろう。
 要人警護の面では、きのうから札幌市で先進7カ国(G7)の気候・エネルギー・環境相会合が始まり、5月の首脳会議(G7広島サミット)に向けて議長国の日本で国際会議がめじろ押しとなる。警察当局の危機感を持った対応を求めたい。

高知のニュース 社説

注目の記事

アクセスランキング

  • 24時間

  • 1週間

  • 1ヶ月