2023.04.15 08:32
総合芸術誌「ユリイカ」が牧野富太郎特集 真価を多様な視点で考察 関連本で異彩放つ
特集の冒頭は、作家のいとうせいこうと歴史学者の藤原辰史による対談。人間中心の視点から植物の生態を見つめることで始まる新しい哲学を語り合う。いとうは「生命の成り立ちから僕たちとはまったく違う、完全な他者に思いを馳せるというのが大事なことだ思っています」と言い、藤原は生死に対する人間の捉え方は狭いものであって植物たちの生存方法を考えれば「人間の生き方も少しは相対化できるんじゃないかな」と応じる。
「平和の象徴としての牧野標本」 菅原一剛
牧野の標本写真を撮影している写真家の菅原一剛は「みどり色とさくら色」と題した文章を寄せている。故郷の高知県佐川町で出合ったバイカオウレンに心を躍らせ、高知県立牧野植物園の牧野文庫で膨大な蔵書と精細な植物図に対面する。そして、そこに収められていた植物標本に衝撃を受ける。
〈この出合いは、ぼくにとって衝撃的だった。数分前に見た植物画にいのちの気配を感じていたところ、今目の前にある標本は、まさしく“ほんもの”だったからである。そこに存在するのは、博士が描く植物画の世界そのものだった。おそらく博士は、植物画を書くときも標本を作るときも、…