2023.04.09 08:00
【植田日銀始動】金融緩和の検証と対話を
日銀の総裁が交代し、植田和男氏がきょう就任する。戦後初の学者出身の総裁が重責を担う。
10年にわたり総裁を務めた黒田東彦氏は、「異次元」と称された大規模緩和を推し進めた。2013年にまとめた政府と日銀の共同声明を根拠とする。安倍政権の経済政策「アベノミクス」と連動し、2%の物価目標を早期に実現するとした。
景気の下支えを狙い、日銀は金利を極めて低く抑えるため国債を大量に買い入れた。その結果、国債市場に過度に介入したことが市場機能を著しく低下させたとして、強い批判が向けられる。また、上場投資信託(ETF)の大量購入は株価低迷から抜け出すことにつながった側面がある一方で、官製株高で市場をゆがめたとの見方も根強い。
日銀が保有する国債は発行残高の5割を上回り、健全性が疑問視される状況となっている。物価抑制を優先して米欧が大幅利上げに踏み切る中、日本の対応は制約され、金利差から急激に円安が進んだ。市場は今後の利上げを見越して、国債の売り込み圧力を一段と強めることが想定される。厳しい局面が続く。
新型コロナウイルス禍からの経済回復やロシアのウクライナ侵攻で、世界的な食料、エネルギー価格の高騰が進んだ。さらに円安の進行で、最近の消費者物価の上昇率は、負担軽減策による押し下げ効果を除けば4%相当と高水準にあり、家計を圧迫している。
国内企業物価の伸び率は縮小しているが依然高い水準で、企業の価格転嫁圧力は強い。商品価格の値上げが引き続き想定される。ただ、高騰は今後和らぎ、安定的な2%上昇はまだ望みにくいとの予測も示される。2%目標の位置付けや政策効果をはじめアベノミクスの検証を通して、新たな施策展開へとつなげる必要がある。
国債の大量保有は同時に、財政規律を緩めたと指摘される。国内総生産(GDP)に対する政府債務残高比率は先進国最悪だ。金利上昇で利払い費が急増することへの警戒感は根強いが、それでも歳出拡大が止まらない。内閣の判断で使途を後から決める予備費の活用も目立つ。
黒田氏は金融緩和は適切だったと振り返った。しかし、問題点の指摘も多い。植田氏は金融緩和を続ける意向を示す一方、金利の決まり方がゆがむなどの副作用に配慮する姿勢だ。検証を続けて必要な修正をする姿勢が必要だ。米国や欧州で広がる金融不安が波及しないように対応することも求められる。
今月下旬に予定される金融政策決定会合が注目される。唐突な施策変更は混乱を招く。対話を重視しながら、丁寧な説明を重ねることが信頼を高めていく。