2023.04.03 09:48
【追悼・坂本龍一さん 】2009年高知公演時インタビュー「死を意識し、残り時間思うように」
「残り時間を考えて、自分にとって大事なことは何かをシビアに考えるようになった」と話す坂本龍一さん(高知市九反田の市文化プラザ「かるぽーと」)
高知県では24年ぶりとなる坂本龍一さんの演奏会が24日夜、高知市で開かれた。近年は梼原町と中土佐町の森林整備に取り組むなど環境問題への関心を深め、最新作「アウト・オブ・ノイズ」にも自然が発する美しい音が取り込まれている。坂本さんに話を聞き、ソロピアノで奏でられた静謐(せいひつ)で甘美な楽曲の数々に身を浸した。
「実際のところ、大変な作業だと思いました。もう少し若ければ僕もやるんだけど、急斜面での間伐なんか、無理でしょうね」
梼原、中土佐の森を訪れた感想を話す。県の「協働の森づくり」に共鳴。二つの森を自身が代表を務めている法人の名を冠した「モア・トゥリーズの森」として、森林整備の費用を出している。
「森林をはぐくんでCO2を吸収することが経済効果も生む。これは素晴らしい制度で、高知県がいち早く取り組んでいる。他県も見習ってほしいですね」
「間伐された森は日光が差して、すがすがしい気持ちになる。若い人たちに関心を持ってもらって、彼らに頑張ってもらわなきゃ」
「アウト・オブ・ノイズ」には、氷河の解ける音といった自然の素材が使われ、それは「作り出したものというよりは、そこにあるものという感じで、生け花みたいなところがあるかもしれない」と新作を語る。
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2台のグランドピアノを駆使した演奏会では、即興による曲も含まれた。「作る」のではなく、坂本の体から「生まれてくる」色彩豊かな音の粒に包み込まれるようだった。
それは「エナジーフロー」など近年から、「シェルタリング・スカイ」「戦場のメリークリスマス」といった往年の名曲においても同じように感じた。
塗り重ねて構成した具象の油彩ではなく、即興も生かしながらの抽象画のような音楽が響いた。
「こうした自然とのかかわりが、僕の音楽に具体的にどんなふうに影響しているのかは分からないんです」
30年前、坂本が作曲した「テクノポリス」は、コンピューターで制御されたシンセサイザーによって「人の手」と「自然」が排されたような、クールでファッショナブルな世界に類を見ない音楽だった。YMOの世界的成功は日本企業のそれともつながっていた。
「あのころはね、自然への関心なんて、まったくなかった。手塚治虫さんが描いたSF的な未来社会のような希望が残っていたんだと思うんです。それが21世紀を迎えて、そんなふうにはならないことが、みんな分かってしまった。科学とか技術というのはマイナス面も大きいんじゃないか、と」
それから自然へ関心が向き始めたのは「老化でしょうねえ」と笑う。
「僕は体が生まれつき丈夫で病気をしたこともなく、40過ぎまでむちゃをしてきました。目の前の面白そうなことを次々やってきた。でも体の衰えを自覚して、死を意識するようになったし、残りの時間を思うようにもなった。死と輪廻(りんね)、自然の中の生命ということも、よく考えます。今度のアルバムにも、そうしたことは反映されているかもしれません」(竹内一)