2023.03.22 08:40
中土佐町に、よりこんぼ―高知(ここ)に住まう 第6部 食と暮らしのカタチ(2)
畑の隣で昼食を取る北川さん一家。たき火で海水を煮詰めて塩を作りながら(中土佐町久礼)
ニンジンの植え付けに向けて土作りをする北川さん親子
「自然農園よりこんぼ」の北川さん一家。「よりこんぼ」とは「みんなが寄り集まって仲良く楽しく」という意味の方言だという。
倉庫前の空の下が休日の“リビングルーム”。塩を作る大鍋が湯気を上げる。
「いつも食べているものだけど」と昼食に誘ってくれた。畑で飼う地鶏の卵の目玉焼き、自家製塩を使った玄米と小豆のおにぎり。野菜たっぷりのみそ汁には主力作物の有機ショウガをおろす。体が温まり、後味がきりっと引き締まる。
「これ誰の卵?」と長男の颯一郎君(6)。食事時の口癖だという。野菜などを贈り合う地域付き合いの中、米やお茶、肉や魚まで「誰が作ったの?」。
母、美帆さん(46)は「『食べる』と『作る』がちゃんと結び付いている。高知に来て本当に良かった」と目を細めた。
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美帆さんは横浜市出身で客室乗務員として15年間、ニューヨークやロンドンなどに飛んでいた。秋田県出身で夫の良介さん(42)は芸術大学を出て、在京テレビ局で働いていた。
出会いは2012年、土佐町の「有機のがっこう・土佐自然塾」だった。
「ずっと気持ちが自然に向いていた。仕事は満足だけど生きる場所はここなのかと考えていた」という美帆さん。良介さんも「ビル内で編集作業が続き、太陽に当たりたかった」。同じタイミングで自然塾の故・山下一穂さんに師事。結婚し、15年から久礼で農業を営むことになった。
なぜ久礼かといえば、美帆さんの祖母、出口敏子さん(故人)が暮らしていたから。幼少の夏休みに地元の子らと海で泳いだ「強烈な原体験」と、稲刈りや真夏の朝など「季節の匂い」が忘れられなかった。
借りた畑も含め計7枚、約1ヘクタールを耕作。季節に応じてショウガやサツマイモ、オクラ、空豆、ニンジンなどを出荷する。
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「生活が趣味」というほど日常を楽しむ夫妻。悩みの種が住居だ。
現在暮らすのは、畑から約1キロ離れた別集落の町営住宅。収入増により、4月から家賃が4倍以上に跳ね上がると通知された。「本当は、畑のある大野地区に住みたいけど…」
でも、地区内の空き家は「本家だから」「貸すのはちょっと」と難しかった。自由にできる土地は農地ばかりで、家を建てるのは許されない。
「愛着がある集落を将来につなげたい。農業や自然に触れたい人たちともっと共有したい。外から来た人が農家の日常を感じられる環境をつくるため、自分たちに合った家とゲストハウスを持つことが目標」
実は美帆さんの移住をきっかけに、横浜に住む母親と米国で研究者をしていた兄が久礼へ移った。介護のため横浜市に残っていた父親も合流し、「今ではここが実家」という。
まさに、よりこんぼ。(報道部・八田大輔)