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2023.03.15 08:00

【袴田さん再審】検察は決定を受け入れよ

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 確定判決に疑義が向けられ、冤罪(えんざい)の可能性が強まった。事件から間もなく57年になる。権利回復には時間の制約がある。審理を長期化させてはならない。
 1966年に静岡県の一家4人が殺害された事件を巡り、死刑が確定した袴田巌さんの第2次再審請求の差し戻し審で、東京高裁は裁判のやり直しを認めた。「犯人と認定できない」と結論付けた。
 2014年の静岡地裁に続き2度目となる。地裁決定では、確定判決が「犯行着衣」とした衣類5点に残っていた血痕について、袴田さんや被害者のものではない可能性が高いとした弁護側のDNA鑑定を信用できると判断した。しかし、東京高裁は鑑定手法が信用できないとして18年に退け、20年に最高裁が差し戻す経緯をたどった。
 差し戻し審で争点となったのは、衣類の血痕の変色状況だ。衣類は事件から約1年2カ月後、袴田さんの勤務先だった工場のみそタンク内から見つかった。血痕には赤みがあり、みそ漬けでその色が残るかどうかが争われた。
 裁判長は、血痕に赤みは残らないと主張した弁護側鑑定の信用性を認め、「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」と判断した。検察側は独自の実験で、1年2カ月が過ぎても赤みを観察できたと反論していたが、赤みの消失は専門的知見により合理的に推察できると指摘した。
 さらに裁判長は、衣類は捜査機関側がタンク内に隠した可能性が高いとし、捏造(ねつぞう)の可能性にまで踏み込んでいる。静岡地裁決定もその可能性に言及したように、有罪立証の素材に疑義が向けられたことは重く受け止めなければならない。
 自白の任意性も死刑判決を出した一審地裁判決から問題視された。過酷な取り調べから、供述調書は1通を除き証拠から排除されている。どのような捜査が行われてきたのか検証する必要がある。
 死刑の恐怖と向き合ってきた袴田さんは拘禁症状の影響が続く。87歳となり、救済への時間は限られる。検察側が最高裁に特別抗告すれば一段の長期化は避けられない。
 第2次再審請求は約15年に及ぶ。静岡地裁の再審開始決定から9年たつが、再審は始まっていない。
 長期化の背景には、再審開始決定に対して検察側が不服を申し立てる弊害が指摘される。再審決定は、確定判決に疑念があると裁判所が判断したためだ。検察側は再審公判で不服の主張をすべきだとする意見は根強い。それが、刑事裁判の原則である「疑わしきは被告人の利益に」にも沿うはずだ。
 しかし、刑事訴訟法には再審に関する条文が少ないなど、冤罪被害の救済につながる詳細な手続きは定まっていない。先ごろの滋賀強盗殺人事件でも、再審開始を認めた大阪高裁決定に対し、大阪高検は最高裁に特別抗告した。再審手続きはさらに長期化する。再審に関する制度整備を、証拠開示の在り方を含めて進める必要がある。

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