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2023.03.12 08:40

【7人子育て中】私って「透明人間」?―なり手になって 令和の新人議員たち(5) 2023高知 統一選

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自宅の居間で子どもらに囲まれる杉山愛子さん(須崎市上分)

自宅の居間で子どもらに囲まれる杉山愛子さん(須崎市上分)

 「ねーお茶がないー」「きょうリフティングうまくなったがでー」

 須崎市のとある一軒家。夕げの献立は肉じゃが、みそ汁、ごはん。子どもたちが口々にしゃべり出す。

 1歳から14歳まで5女2男。母親の杉山愛子さん(41)は一番下の娘の口におかゆを運びながら、飛び交う会話に「うんうん」とうなずく。食卓はにぎやか、というか騒々しい。

 毎朝、午前5時半起き。ウェブデザインの会社で働く夫の豊人(とよと)さん(41)を含め9人分の朝食を作る。小中学生4人を送り出し、保育園児2人を車で預けたら、大量の洗濯物に取りかかる。

 午後4時に保育園へお迎え。午後7時、子どもたちが足に絡みついて、夕食の調理が進まない。順番に風呂。午後10時には豊人さんが帰宅。1歳を寝かしつけるが、隣で寝落ち。深夜に夜泣きで起こされて…。

 これは「仕事」のない日のスケジュール。杉山さんは昨年10月、須崎市議選で初当選した。子育てママと市議の“兼業”になった。

 「いやいや無理やろって、最初は思った」

 ◇ 

 2011年3月。杉山さんは一家4人で東京から須崎市に帰ってきた。東日本大震災の福島第1原発事故で拡散した放射性物質への不安からだった。

 「避難ママ」の交流会に参加するうち、原発問題に関心を持つ。5年前、勉強会で知り合った人の勧めで共産党に入党した。

 「候補が見つからない。協力するからお願い」。昨年9月、党市議から出馬を頼み込まれた。選挙なんて手伝ったことすらない。告示まで1カ月。迷った。

 勉強熱心。決めたらとことん、という性格だ。須崎高校を経て鹿児島県の体育大学を卒業後、古文や言語学を学ぼうと東京の大学に入り直した。大学院試験を前に身ごもり、研究者の夢は諦めた。

 ほぼ2年ごとに家族が増える幸せな主婦生活だったが、世の中の変化に触れるのは新聞だけ。「社会に置いていかれる」孤立感も心の隅にあった。

 「母親の立場で私でもできることがあるんじゃないか」。無所属での市議経験がある父やママ友に相談すると、サポートを約束してくれた。夫は一度は反対したが、「挑戦したい」と訴える妻の熱意に、最後は折れた。

 ◇ 

 「子どもがかわいそうやない?」

 リーフレットを手にしたあいさつ回り。玄関口で高齢の女性に深刻そうな顔で言われた。別の立ち寄り先でも「家のことはどうするの」と気遣われた。

 「心配してくれたんだと思うけど、なんだか自分が『透明人間』になっていく感覚があった。私って家庭以外に役割がないのかなって」

 演説では党から「これを使って」と訴えの下書きを渡された。「国保」「農林業振興」…。自分の言葉じゃない文言が並んでいて戸惑った。少しでも自分の考えを、と書き足し、「原発は反対」「笑って子育てできる社会に」と訴えた。

 10月末の開票。党の支援もあり967票を得た。引退した党現職の前回得票を181票上回る3位当選だった。

 赤ちゃんを寝かしつけ、しんとした自宅に吉報が届いた。「分かってくれた人もいたかな」。緊張していた心がふっと和らいだ。(報道部・高井美咲)

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