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2023.03.05 08:00

【日野町事件】再審のルール整備を急げ

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 捜査機関による強引な捜査にまた厳しい目が向き、名誉回復への道が開かれた。一方で「開かずの扉」と言われる再審のハードルの高さを改めて突きつける事件でもある。
 1984年に滋賀県日野町で酒店経営の女性が殺害され、手提げ金庫が奪われた強盗殺人事件で無期懲役が確定した元受刑者=服役中に75歳で病死=について、大阪高裁が再審開始を認める決定をした。
 捜査段階での自白の信用性を否定し、再審開始を認めた2018年の大津地裁決定を支持。検察の即時抗告を棄却し、裁判のやり直しが必要とする2度目の判断を示した。
 高裁の決定は、元受刑者が実況見分で遺体に見立てた人形を使って、遺体発見現場を案内した様子の写真のネガが決め手になった。
 「人形を使わずに再現した後、人形を使って再現する作業」を交互に繰り返したことが判明。高裁は警察官らによる誘導の可能性を含め、再現が任意に行われたかどうか疑問を差し挟む余地が生じたと断じた。
 無期懲役が確定した元の裁判では、検察が開示してこなかった「新証拠」である。弁護団による「捜査機関が都合の悪い証拠を隠してでも犯人に仕立てようとしていた」との批判が説得力を持つ。
 過去にも新証拠の開示によって再審開始や無罪に結び付いた事件は多い。しかし、全507条ある刑事訴訟法のうち再審請求に関する条文はわずか19カ条。開示の詳細な手続きは定められておらず、裁判官の裁量に委ねられているのが実態だ。
 専門家によると、その裁判官にしても再審事件の経験値は低いため、「検察官が開示を拒否する姿勢を示すと、突破するのは容易ではない」という。刑訴法の再審規定(再審法)を改正し、証拠開示の条文を設けるべきだという声は大きい。
 また、日野町事件は元受刑者が再審請求の手続きを始めて21年以上が経過。服役中の無念の死からは12年になる。「死後再審」が始まれば死刑や無期懲役が確定した戦後の事件では初めてだが、検察側が今月6日が期限の特別抗告をすれば、名誉回復はまた遠のく。
 この再審開始決定に対する検察官の不服申し立て(抗告)も、制度の課題として指摘されている。検察側が確定判決に間違いはないと考えているのであれば、再審開始決定は受け入れて、再審の公判で主張すればいいはずだ。
 再審は、誤った有罪の確定判決を受けた冤罪(えんざい)被害者の救済を目的とする制度である。現状では手続きの長期化が早期の救済を妨げていると言える。
 日弁連は先月、再審に関する刑訴法の規定が70年以上見直されていないとして法改正を求める意見書を法務省などに提出した。「証拠開示のルール化と検察官の不服申し立て禁止は喫緊の課題だ」としている。
 冤罪は国家による深刻な人権侵害である。より迅速に審理を尽くし、速やかな救済を可能とするルールの整備が急がれる。

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