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2023.01.27 16:50

【天覧奇術師・阿部徳蔵の生涯 #8】研究の成果を2冊の書籍に 新作マジックの考案も

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 阿部徳蔵の著書「とらんぷ」(左)と、2022年に刊行された新装版

 昭和天皇に3度マジックを披露した希代の奇術師・阿部徳蔵。その生きざまと、日本におけるマジックの歴史を「東京アマチュア・マジシャンズ・クラブ」の石崎健治さんが紹介する連載の第8回。


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 阿部徳蔵は自身のマジック研究の成果をさまざまな形で発表している。会長を務めた「東京アマチュア・マジシャンズ・クラブ(TAMC)」の会報に短い評論文を載せていたほか、1936年に「奇術随筆」、38年には「とらんぷ」と題する書籍を出版した。


 「奇術随筆」は日本、西洋、東洋の奇術を幅広く調べ上げた知識を基に書き下ろされた随筆集。格調高い「美術曲芸しん粉細工」、米国で認められつつあった石田天海の演技批評「奇術の鑑賞と批判」などが含まれる。


 「とらんぷ」は「研究篇」と「技術篇」からなり、遊戯道具としてのカードの歴史から奇術まで幅広く扱う。1584年に英国のレジナルド・スコットが著書で取り上げたカード奇術5作品の翻訳も掲載。阿部の時代には「世界最古のカード奇術」とされた貴重な文献を日本に紹介した。「とらんぷ」は2022年に新装版が発行され、現代の愛好者にも親しみを持って迎えられたようだ。


 阿部は新作マジックの考案にも情熱を注いだ。TAMCの試演会では、オリジナルのハンカチ奇術「近頃銀座風景」を上演。脚色を担当した奇術劇「あっちの僕」は、首のすげ替え術を物語仕立てで見せる演目で、どちらも後輩たちによってたびたび再演されている。


 阿部の没後、懇意にしていた経済学者の向坂逸郎が発表した追想文「阿部徳蔵さんと私」には、阿部の練習熱心ぶりを伝えるこんな記述がある。「いつもマッチの箱か(中略)またはトランプをもっていて、指で、これを操っていた。手指の先をつねに柔なんにする修練であったようだ」


 2人は阿部が関東大震災後に転居した鵠沼(神奈川県藤沢市)で出会った。経済と奇術、専門分野は違うが不思議と馬が合い、屋台で買ったたい焼きを一緒に食べながら散歩するなど、ほのぼのとした交流を続けた。(アマチュア奇術家)


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 いしざき・けんじ 1948年東京都生まれ。2008年から東京アマチュア・マジシャンズ・クラブ(TAMC)会員。活動の一環として、阿部徳蔵の業績研究を手がける。

(c)KYODONEWS

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