2023.01.23 08:40
過去を知り未来つくる 南国市文化財担当職員 浜田佳奈さん(35)南国市―ただ今修業中
「歴史を知る楽しさを伝えたい」と話す浜田佳奈さん(南国市岡豊町八幡)
ガッガッ、ジャッジャ…。
平安時代の集落跡を調査する南国市久礼田の遺跡発掘現場。手くわで黙々と土を削り取り、図面に土の色や質感を正確に、丁寧に落とし込んでいく。
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徳島県石井町出身。祖母の影響で、歴史小説を読みふけった中学時代。徳島県には主に鎌倉から室町の時代に供養塔として建てられたとされる板碑(いたび)が多く残っており、高校に入ると拓本を取ったり、地元の研究家に話を聞いたり、歴史への興味を深めていった。
「遺跡や文書(もんじょ)は、ストーリー性を持って昔の文化、生活様式を今に伝えてくれる。歴史の魅力の“沼”にどっぷりはまってしまいました」と笑う。
フィールドワークを通じた学術調査の環境が充実していることから、高知大学人文学部人間文化学科に進んだ。高知市の朝倉古墳、香美市の大元神社古墳、南国市の明見彦山古墳…。考古学ゼミに所属し、発掘の手順や測量といった専門知識を一から学んでいった。
「ゆくゆくは文化財を通じて地域の歴史を広く伝え、文化振興や観光に生かす仕事がしたい」と思うようになった大学時代。人に伝えるとは? 歴史少女はここからいろいろなスキルを身につけていく。
県内のテレビ局のリポーターや京都市の古田織部美術館の学芸員などを経験。外国人観光客対応などで必要になる英語を習得する一助になればと、高知龍馬空港でグランドスタッフを務めたこともある。
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時は流れても、歴史への思いが消えたわけではなかった。人生経験を積んでたどり着いた場所は、やっぱり歴史の世界。昨年4月から南国市教委生涯学習課(同市立田)で、主に遺跡調査などを担当する職員として勤務している。
市教委が行う調査は、農地のほ場整備や民間開発に併せて行うケースがほとんど。多い時期はほぼ毎日、現場に入る。調査期間は限られているため、夜中に投光器で照らして作業することもしばしば。現場で汗を流すめまぐるしい日々が続く。
その原動力となっているのが歴史が教えてくれる感動。初めて調査に入った市内の若宮ノ東遺跡では「少し掘るだけでたくさんの遺物が出た。当時のままの状態のつぼやかめとか。本当に興奮しました」と振り返る。
遺物が複数出れば「ここは保管場所?」、土器のかけらが多いと「ごみ捨て場かな?」、焼土や炭化物が確認できると「煮炊きをしていた場所かも?」。はるか昔の人々の営みに思いをはせると、心が躍る。
現在は長宗我部氏の居城、岡豊城近くの遺跡も調査する。ほかにも弥生時代の田村遺跡など数多くの遺跡や史跡が残る南国市は、高知の空の玄関口。そこに降り立つ多くの人に、歴史ロマンあふれるまちのことを伝えたいとの思いは、今も変わらない。
好きな言葉
過去を正確に把握し、記録することで堅実な未来をつくりだしたい―。そう願いながら、今日も少しずつ土を削る。
写真・佐藤邦昭
文 ・海路佳孝