2023.01.19 08:40
「救急搬送困難」高知市１０倍超 救急車足りず消防車出動 徳島に運んだケースも
救急車の稼働状況を示す高知市消防局指令室内の表示板。活動できる１３台のうち１１台が出動中を示す赤になっている（１６日、高知市丸ノ内１丁目）
１月１６日午前、市中央消防署（同市筆山町）に「高齢女性が自宅で吐血して倒れた」との通報が入った。隊員が現場に駆け付けて女性の状況を確認。重篤な患者を受け入れる「３次救急」の医療機関への搬送が必要だと判断した。
だが、ベッドがいっぱいで受け入れが難しいと言われた。そのうちに女性の容体が急変。血圧が低下し、心肺停止になった。改めて「３次救急」の病院に連絡すると、医師が女性宅まで駆け付け、現場で治療してくれたという。
「初めての事態だった。もし医師が来てくれなかったらどうなっていたか。不安で仕方なかった」。隊員はそう話し、「自分がけがをしても命が助かるのかと思う状況。県民の危機ですよ」と強調した。
市消防局によると、「第８波」が拡大した昨年１２月の救急出動は２１２６件。同局幹部が「大規模災害級だ」と訴えた昨年８月の１９７７件を上回った。救急車が足りなくなり、消防車で隊員が現場に駆け付けたこともあったといい、今年１月の件数も１６日時点で１１０５件に上る。
「救急搬送困難事案」（医療機関に４回以上照会かつ現場滞在３０分以上）も急増。昨年１２月は１９０件（前年１０件）、今年１月も１６日までで１２０件（同１７件）となっている。
県内の医療機関が受け入れられないため、四国の他県の医療機関に交渉するケースも増えている。
１月７日午後８時ごろ、高齢女性から市北消防署（秦南町１丁目）に救急要請があった。体半分がしびれる脳疾患の症状があり、早く運ばなければならなかった。市内の医療機関を中心に２２回続けて断られ、２３回目に受け入れてくれたのが徳島県三好市の病院。隊員が署に戻ったのは翌８日の午前３時前だった。
ただ、四国３県の病院に電話しても「高知のことは高知で何とかして」と断られるケースがほとんど。市中央消防署の隊員は１月１３日、市内だけでなく幡多や安芸など県内各地、そして四国３県の病院にも電話したが、どこも駄目で交渉は計３５回に及んだ。
同署の片田浩署長は「医療スタッフも何とかしようとしてくれているが、状況は大規模災害級だった第７波よりもひどい」と危機感を強めている。（村上和陽）
クラスター多発で逼迫 感染者「県発表の倍か」 一般救急に影響
高知市の搬送困難事案は、「第７波」のピークだった昨年８月は１５１件すべてがコロナが疑われる患者だった。一方、「第８波」では約半数をコロナ疑い以外の患者が占めている。なぜ、病気やけがといった一般救急にまで影響が及んでいるのか―。
高知大学医学部災害・救急医療学講座の西山謹吾教授は、感染規模の拡大が影響しているとみる。県は昨年９月から感染者の全数把握を簡略化しており、「第８波の実際の感染者数は、県の発表数の倍はいると思っていい」とする。
市中感染の広がりに伴い、医療機関のクラスター（感染者集団）も多発。県によると、第７波の４カ月間で７９件だったのが、第８波では２カ月半で既に８１件となっている。
救急病院では、容体が安定した患者を別の病棟や他の病院に移し、次の救急患者を受け入れるベッドを確保する。しかし、転院先となる病院でも感染が多発し、入院の受け入れを制限した。救急病院から患者を“押し出す”ことができず、コロナ疑いかどうかにかかわらず新たな救急患者を受け入れにくくなっているという。
県内の主要救急病院でも、軒並みクラスターが発生。医療従事者の感染などによる欠勤も多いほか、冬場は肺炎や脳血管障害などで救急搬送件数が増える季節要因も重なり、かつてない逼迫状態につながっている。
３０年近く県内の救急医療の現場を見てきた西山教授は「県内三つの救命救急センターがそれぞれ月２５０～３００回ほど受け入れを断っている。県民の命を脅かしかねない状況だ」と警鐘を鳴らしている。（石丸静香）
