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2023.01.16 08:40

美しさは揺るぎなさ サッカー審判 樋下愛海さん(25)四万十市―ただ今修業中

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凜(りん)とした試合さばきで存在感を放つ樋下愛海さん。「実は心の中ではアワアワしているんですけどね」(黒潮町佐賀の佐賀中)

凜(りん)とした試合さばきで存在感を放つ樋下愛海さん。「実は心の中ではアワアワしているんですけどね」(黒潮町佐賀の佐賀中)

 最初の笛は、特に強く、きれいに吹く。「『この人なら任せていい』と安心して試合をしてほしい」からだ。

 鋭い笛でファウルを告げ、不満げに両手を広げる選手を静かな瞳で諭すように制する。中学生たちが汗を飛ばし、土煙を上げてボールを奪い合う中にあって、157センチの黒服姿が不思議と目を引くのは、毅然(きぜん)とした、一つ一つの所作が存在感を放つからか。「所作がきれいなことで、より信頼してもらえる。選手はよく見ていますから。『この審判、大丈夫か?』って」

 ◆
 
 5歳でサッカーを始め、のめり込んだ。中学まで地元土佐清水市でプレー。高校は女子の強豪、岡山の作陽高校へ進み、大学も「サッカーができて教員免許も取れる」と徳島文理大学を選んだ。“審判デビュー”は大学1年。練習試合を吹いて、「意外とやれるやん」。最初の印象はそんな感じだった。卒業後は佐賀中学校に赴任し、サッカー部を指導する傍ら、県内小中学生の大会などで審判として重宝された。ただ、必要とされる喜びはあったが、のめり込むほどでもなかった。

 社会人1年目の終わり頃、「この試合の主審、やってみる?」と水を向けられたのは、県内トップ級の中学生クラブチームの対戦。「分かりました」といつものように引き受けて、試合が終わると泣いていた。

 かつてない速さのプレーや、いつも以上に勝利に懸ける選手たちの思いを受け止めきれなかった。「何がファウルなのか、選手がバチバチするのはどんなタイミングで、どう予測して位置取りをしなければいけないのか。全く分からなかった。全てが勉強不足でした」

 焦りが態度や表情に出て、試合はコントロールを失い、選手たちから言葉をぶつけられる。具体的な内容は聞き取れなかったが、ピッチに充満する感情が不信感と怒りだということは痛いほど分かった。

 「試合を怖がってしまった」。悔しさ、ふがいなさの奥に「絶対やってやる」と炎がともる。そして審判にのめり込んでいった。

 ◆
 
 ルールブックで基本を学び直し、県協会や四国協会が開く講習会に通った。試合後は、審判仲間や監督らに感想や助言を求め、反省と改善を繰り返した。

 所作の美しさを大切にする。美しさは自信からにじみ出ると思うから。「カッコよくいたい」し、笛と同様に、「『この人なら任せていい』と安心して試合をしてほしい」。高校女子の四国大会で笛を吹き、なでしこリーグやインターハイなどのハイレベルな試合で副審や4審を務めるうち、他校の監督から「堂々としている」「揺るがない」と評されるようにもなってきた。

好きな言葉

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 2021年には日本サッカー協会の2級審判員を取得した。これは今の県内女性審判では一人だけだ。「まずは2級で経験を積んだ後、もっと上を目指したい」と力がこもる。

 女性審判の育成にも関心がある。自分の美しい試合さばきに憧れ、門戸をたたく人がいたら―。「そうなってくれたら、一番うれしい」。そんな日も夢見て、23年もまた、美しく笛を鳴らす。

 写真・山下正晃
 文 ・平野愛弓

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