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2023.01.11 08:00

【ブラジルの暴動】民主主義の否定を憂える

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 米国で2年前に起きた歴史的事件を思い起こさせる出来事だ。しかも事態はあの時の米国より深刻といえるかもしれない。
 ブラジルの首都ブラジリアで、ボルソナロ前大統領の支持者らが三権の象徴である連邦議会、大統領府、最高裁を襲撃した。建物の一部が破壊された。
 地元メディアによると、ボルソナロ氏が敗北した昨年10月の大統領選の結果に対する抗議デモが暴徒化。襲撃には約4千人が加わり、約1500人が警察に拘束された。
 ブラジルは選挙によって政治リーダーを選ぶ民主国家であり、暴力を認めない法治国家でもある。選挙結果が不本意だからといって、暴力に訴えることは許されない。
 国民も大きな衝撃を受けているに違いない。一刻も早い混乱の収束を願う。なぜここまでの人数が暴徒化したのかなど、事件の真相解明も求められる。
 先の大統領選では、右派の現職ボルソナロ氏と左派の元職ルラ氏が激戦を展開。決選投票でそれぞれの得票率が49・1%と50・9%となり、ルラ政権が今月1日に発足したばかりだった。
 敗れたボルソナロ氏は選挙前から電子投票システムに不正があると指摘。選挙後も一部の電子投票機での投票は無効だとして、高等選挙裁判所に選挙結果に対する異議を申し立てていた。
 ただ、その主張には根拠がなく、裁判所は申し立てを却下していた。こうした経緯に一部の支持者らは強い不満を抱いていたが、抗議活動がここまで過激化するには扇動者がいた可能性が高い。
 大統領選後、ボルソナロ氏の息子がトランプ前米大統領と接触。トランプ氏の元側近が交流サイト(SNS)でボルソナロ陣営の抗議活動をあおったとの報道もある。事実から目を背け、強硬な手段も辞さない米国の「トランプ主義」の影響が否定できない。
 米国では2021年1月の政権交代前、トランプ氏が大統領選敗北を認めず混乱。トランプ氏の呼びかけに応じるかたちで連邦議会議事堂に集まった大勢の支持者が、バイデン氏の当選認定手続きを阻止しようと乱入し、700人超が訴追された。
 ボルソナロ氏は「ブラジルのトランプ」と呼ばれてきた。女性や少数派に差別的な発言を繰り返したり、真偽不明の情報を拡散して支持者を結集させたりしてきた。
 その意味では2年前の米国と今回の事件には似通った面がある。民主主義の盟主といわれた米国から、民主主義の否定が拡散しているのだとしたら恐ろしい。
 バイデン米大統領をはじめ、世界各国がブラジルの事件を非難した。日本の岸田政権も「暴力で民主主義を脅かす行為は許されるべきではない」と表明した。当然である。
 ブラジル国民の間に分断が広がることも懸念される。国際社会は連携し、民主主義の危険な兆候に毅然(きぜん)と立ち向かわなければならない。

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