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2023.01.10 08:45

新船建造の高い壁―絶滅危機! 100トン近海船(7)

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建造から28年がたつ第8日昇丸(宮城県の気仙沼漁港)

建造から28年がたつ第8日昇丸(宮城県の気仙沼漁港)

 新しい船が造れない。

 このことが近海一本釣り漁業の難題であり、産業の窮状を鮮明に映し出している。

 高知船の昨年の平均水揚げ高2億6千万円に対し、100トン超1隻の建造費は約10億円。燃油などの経費高騰と不安定な水揚げに悩む船主にとって、新船建造は高い壁だ。

 本県の8隻中4隻が建造から20年以上経過し、難しい判断が迫っている。

■追い越され安値に
 「速い船が欲しい…」。宮城・気仙沼漁港の岸壁で、第8日昇丸(高知市、113トン)の岡本茂漁労長(52)がうめくように言った。

 同船は1994年に三重県で建造。静岡のキンメダイ漁船を経て2005年に日昇丸となった、いわば「中古の中古」。28年がたち、不意の故障や修理に悩まされる。

 「新型船より2、3ノット(時速3・7~5・5キロ)遅い。先に漁を切り上げても、後の船に追い越される。釣る時間が短い上、カツオを一番安う売らないかん」

 魚群の追跡はもちろん、漁場から市場を目指す際にも差が出る。市場で魚は入港順に競られ、遅くなると値下がりすることが多いためだ。

 船主の中田勝淑(かつひで)さん(66)=高知かつお漁協組合長=も現状打開にもがく。大月町出身の父、角市さん(故人)が沖縄の船を購入して独立したのが1963年。「39トンの木船。当時の高知にない真っ青な船だったのを覚えている」

 70年代に3隻に拡大。80年に新船を造った後、1隻体制となってから新造船はない。

■残すべき漁法
 中田さんは2021年度、119トンの新船を造ろうと、国の「もうかる漁業創設支援事業」に挑戦した。生産性向上の実証実験として一定期間の経費を国が負担する制度。建造費9億7千万円に対し、3億~4億円の補助を見込んだ。

 新船需要の落ち込みなどにより、国内で100トン超のFRP(繊維強化プラスチック)船を造れる造船所は1カ所しかない。このため、新船は工期が短いアルミ合金製とした。

 省エネや高鮮度処理、航海日数の増加で収益を上げる計画を練り、目標の水揚げ高を年3億5千万円とはじいたが…。補助の前提となる造船費の確保でつまずいた。

 「漁獲が伸びる保証は?」

 「債務超過ぎみの経営が本当に改善できるのか」

 融資を求める金融機関との交渉が難航した。水揚げ高2億3千万円ほどの現状が、新船により上向くという計画に理解が得られない。交渉は実らず、昨年3月に補助事業の審査に落ちてしまった。

 中田さんは東海大学水産学部を卒業。一般企業で働いた後、1980年代半ばから日昇丸の会計などを手伝うようになった。「当時、家業が一本釣りって言うのが恥ずかしかった」という。

 大学の同級生が就職した巻き網関連の産業に、いきおいと先進性があるように感じた。県内では宇佐船団が負債を抱えて廃業するなど、一本釣り船の急激な近代化・大型化に陰りが見えていた。

 97年には父の角市さんが組合長を務める土佐鰹漁協(通称「土佐カツ」)が債務超過により解散。業界は厳しさを増していった。

 中田さんが今、新船建造に挑むのは、社会の変化により一本釣りの価値が見直されてきたことが大きい。

 「世界で持続可能性が重視され、資源を保ちながら1匹ずつ漁獲する一本釣りは、むしろいい漁法だと言えるようになった。高知や世界にとって残していくべき漁業だ」

 新船の計画を、より経費が抑えられる70トン級のアルミ船に変更し、融資や補助の獲得に奔走する。さらに船を小型化する選択肢もあるが、「遠い沖合で安全に操業できるサイズにこだわる。近海船が、小型船の沿岸漁場とすみ分けて操業することが一本釣りの未来につながる」。

 一度消えた灯は戻らない。船と船員を絶やさないための奮闘が続く。(報道部・八田大輔)

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