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2022.12.26 08:00

【奈半利汚職判決】制度の原点を見失うな

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 全国から注目された奈半利町のふるさと納税汚職事件で、高知地裁は贈収賄を主導した町元課長補佐らに実刑判決を言い渡した。2020年3月の逮捕から2年9カ月を経て、事件は一つの区切りを迎えた。
 元課長補佐は、ふるさと納税の返礼品の選定や発注で業者らに便宜を図り、その見返りに賄賂を受け取ったとされる。一義的には個人に起因する犯罪だろう。だが、制度の構造的な問題もあった。それらが見過ごされたままではいくまい。
 ふるさと納税は、自分の古里や関心ある自治体に寄付して応援するとの趣旨で08年に始まった。次第に、返礼品の内容を巡って自治体間の競争が過熱。地場産品以外の返礼品を構えたり、返礼率の高い高額商品を用意するなど、不適切な事例が見られ始めた。税の公平性の観点でもゆがみが生じた。
 奈半利町は、こうした寄付集めの先頭グループを走った。業務を一任されていた元課長補佐は競争の中、巨額の金を扱ううちに金銭感覚とモラルを失い、親族に資金を還流させるようになったとされる。
 国は競争を抑えるため、19年からは返礼品を地場産品に限り、返礼率を「寄付額の3割以下」とする基準を決めた。だが、近隣市町村と連携すれば地元で生産していない品物も地場産品と扱える「共通返礼品」制度などは続く。競争の側面が消えたわけではない。
 返礼品ビジネスは地場産品の販路拡大につながり、活性化の手段が限られる小さな自治体ほど魅力を感じるのは確かだろう。だが「官製ネット通販」とも言われる現状は、決して正常な姿ではあるまい。原点を見失えば逸脱する。抑制的な意識を持って運用することが重要だ。
 事件を招いた背景には、実務能力の高い特定の職員を過度に信頼し、業務を任せきりにした町の態勢もあった。元課長補佐は「エース職員」と呼ばれ、町長らは全幅の信頼を置いていた。
 ふるさと納税は多額のお金が動き、返礼品や業者の選定では民間との接点も生まれる。そこには利権や癒着が生じる可能性がある。チェックが働く組織的な仕組みが当然必要であり、そうした態勢をとらなかった町政の責任は大きかった。
 県内市町村はいま、その教訓を生かせていると言えるだろうか。
 返礼品の選定業務に関して、本紙が県内34市町村に態勢を確認したところ、15市町村は審査に外部の人間が関わっていたが、19市町村は庁内のみの審査だった。
 庁内審査で対応する自治体は、複数職員が関わることでの不正防止を強調する。県も「第三者の目」としての役割を自任する。形は各市町村に委ねられるだろうが、機能が形骸化しないよう努めてもらいたい。
 制度全般を巡っては、税収が目減りしている都市部の反発が強い。年収が多いほど控除額の上限が高く、富裕層の方が恩恵がある課題も指摘される。健全な在り方を、引き続き模索していく必要があろう。

高知のニュース 社説

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