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2022.12.20 05:00

【子育て支援財源】防衛費の後回しでよいか

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 政策を進める際、軍備と生活・福祉のどちらを優先するかは「大砲かバターか」と例えられる。防衛費捻出にはなりふり構わず走り、子育て支援が掛け声だけに終わるなら「大砲優先」とのそしりを免れまい。
 岸田文雄首相をトップに社会保障制度の在り方を議論する政府の「全世代型社会保障構築本部」が、改革方針を示す報告書をまとめた。
 想定を上回るペースで少子化が進む中、最も緊急を要する取り組みに子育て・若者世代への支援を挙げ、政策メニューを提起した。だが、裏付けになる財源には踏み込まず、来夏に策定する「骨太方針」で道筋を示すとするにとどまった。
 一方で政府は、向こう5年間の防衛費を直近5年の1・5倍に増やすことを閣議決定した。財源の確保へ、年1兆円余りの増税を性急に決めたほか、建設国債の活用など「禁じ手」も解いた。
 社会保障費と防衛費に対する姿勢に開きがありすぎる。防衛費の確保を先行したことで、子育て支援に充てる財源の選択肢が狭まり、企業や国民に新しい負担を求めにくい環境になったことも否めない。
 国の財源は無尽蔵ではない。与党内からも「子育て財源は全部、防衛に持っていかれた」との声が出る。防衛力強化の必要性があったとしても、国の財政運営全体を見渡す視点や国民的な議論が、やはり不可欠だったのではないか。
 国内の出生数は2021年に過去最少になり、減少ペースは加速している。子どもが減り続ければ経済は縮み、産業の担い手もいなくなる。社会保障制度の持続可能性も危うくなる。社会経済活動の根幹が揺らぐことは言うまでもない。
 報告書には、その危機感は確かに反映された。子育て費用を社会全体で分かち合う必要性を指摘し、育児休業給付の対象拡大や、児童手当の拡充などを掲げた。
 これらの財源は、兆円単位で必要とされ、岸田首相も「子ども予算の倍増」を掲げている。確保の手段として、企業からの拠出金や国民から保険料を上乗せ徴収する案などが取りざたされ、7月の参院選後に議論が本格化する見通しだった。
 だが、岸田政権の支持率が低迷する中、防衛費の増額と並んで議論する推進力が失われたとされる。年内の取りまとめを目指していた介護保険料の引き上げ論議は、結論が来夏に先送りされた。社会保障の議論、財源とも防衛分野の後回しにされたと言ってよい。
 国内総生産(GDP)に対する子育て関連支出の割合は、欧州主要国が3%台なのに対し、日本は2%と低い。防衛費の増額を決めた以上、子ども関連予算も確保するべきだとの国民の圧力は当然強まろう。
 来夏の骨太方針で、予算増の道筋を付けることができるのか。具体策を見いだせないようなら、防衛費増額の見直しも含めた検討が必要ではないか。もともと国民的議論を経ていない。何を優先するか、問い直すべきだ。

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