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2022.12.19 08:40

抽選の倍率100倍も 公営住宅の狭き門「心が折れたき」―高知(ここ)に住まう 第5部 「支える家」の風景(1)

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市営住宅の抽選会。倍率は最大で100倍になった(高知市役所たかじょう庁舎)

市営住宅の抽選会。倍率は最大で100倍になった(高知市役所たかじょう庁舎)

 カラカラカラ…。無機質な白い会議室には不釣り合いな、真っ赤な抽選器が音を立てて回る。コロリと出た玉の数字が淡々と読み上げられていく。集まった高齢夫婦らは一喜一憂することもなく、静かに見守っていた。

 師走の迫る11月22日、高知市たかじょう庁舎で市営住宅の抽選会が開かれていた。入居者が募集されたのは15物件。そこに204件の申し込みがあった。JR高知駅そばの単身者向けの1部屋は、実に倍率100倍の狭き門となった。

 結果は応募者に郵送されるほか、インターネットでも公開される。それでも会場で15人ほどが抽選を見守った。「多い時は40~50人来て混雑しますよ」。市住宅政策課の担当者が言う。

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 「倍率見て『こら、あかん』。心が折れたき」。公営住宅に初めて申し込んだという市内の50代男性は苦笑いで語った。

 県西部出身。高校を出てトラック運転手として長く働いてきた。40歳に差し掛かる頃、パニック障害と強迫性障害の症状が出始めた。

 手を何度洗っても汚れが落ちない気がする。外出しても、水道を止めたかどうか、鍵を閉めたかどうかが気になり、何度も戻ってしまう。次第に家から出られなくなり、仕事を辞めた。

 知人に紹介された医師は「ストレス性」と言うが、原因は分からない。10年前からのクリニック通いに合わせて高知市に転居。生活保護を申請し、6畳一間のアパートで暮らす。

 大家は現状を理解してくれている。ただ、もう少し広い部屋に移ろうと訪ねて回った不動産業者は、障害を打ち明けるたび話が止まった。そのうちある業者から市営住宅を勧められ、応募した。

 「ハードルは高いと思うちょったけど、まさか100倍とは」と男性。「もし当たったら一生分の運を使い切りそう。機会があれば再挑戦します」

 カラカラ…。皆の生活が懸かった抽選会場を後にした。

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県内の公営住宅は約1万7千戸。住まいのセーフティーネットになっている(高知市内)

県内の公営住宅は約1万7千戸。住まいのセーフティーネットになっている(高知市内)

 「健康で文化的な生活を営むに足りる住宅を、低額所得者に低廉な家賃で賃貸し、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与する」。公営住宅法の第1条には、憲法から引いたこんな文言が記されている。公営住宅は、いわば住まいのセーフティーネットだ。

 国が示す入居基準は、月収15万8千円以下の世帯。60歳以上や障害者手帳の所有者は21万4千円以下となり、自治体がさらに条件を緩めた物件もある。家賃は入居者の収入や立地、経過年数などで決まる。

 県内では1970~80年代に整備が進み、今は県営4122戸と市町村営1万2792戸の計1万6914戸がある。平均入居率83・3%。それだけ低所得者が多いということだ。

 今年11月30日には、高知市内で県営住宅の抽選も行われた。募集された39物件に223人が申し込み、倍率は最大59倍だった。

 県営住宅の平均倍率は2017年度の3・8倍から上昇を続け、21年度は5・6倍。県住宅課の担当者は「需要は年々増している。だが、理由は分析できていない」という。

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 戦後、県内では宅地開発が盛んに行われ、分譲団地の競争率は時に数十倍となった。時は流れ、今は空き家が目立つように。そんな中でさまざまな経緯から生活に困り、公営住宅をはじめ、住まう場を求める人たちがいる。

 健康で文化的な生活基盤となる、さまざまな「支える家」の姿を見つめた。(報道部・新妻亮太)

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