2024年 04月28日(日)

現在
6時間後

こんにちはゲスト様

高知新聞PLUSの活用法

2022.12.14 08:00

【防衛費の大幅増】国民不在の増税論議だ

SHARE

 岸田政権による防衛力強化方針は、懸念した通り「予算ありき」の様相を呈している。財源を巡っては選挙公約になかった増税方針も示された。安全保障政策や財政運営の大きな方針転換が、国会や国民の目にまともにさらされないまま決まってよいはずがない。
 岸田文雄首相は、2023年度から5年間の防衛費を総額43兆円に増やす方針を打ち出した。22年度までの5年間の1・5倍の水準であり、これまで国内総生産(GDP)比で1%としてきた防衛費を、27年度には2%に倍増させることになる。
 首相はこれまで緊迫化する東アジアの安全保障情勢などを理由に増額を訴えてきた。ただ、「防衛力は内容、予算、財源を一体的に議論する」としていた。実際は「43兆円」のみが先走っている状況だ。財源については、歳出改革や剰余金を活用するなどした上で、不足する1兆円強を増税で賄うとしている。
 検討の熟度の低さ、生煮え感が際立つと言わざるを得ない。
 43兆円については、積み上げ根拠が不透明で説得力を欠く。増額は、必要最小限度にとどめるのが基本であり、「額ありき」と映る。
 軽々に増税を持ち出し、法人税か所得税かなど、手法や時期を巡って与党内でつばぜり合いを繰り広げるさまは、国民不在の議論だと言われても仕方あるまい。
 防衛費は恒常的な経費であり、安定的な財源でなければいけない。剰余金や税外収入がなじむのかという問題もある。増税では東日本大震災の復興を目的とした「復興特別所得税」の転用も取りざたされる。筋が違うのではないか。
 与党幹部は、国債発行も選択肢に挙げる。自衛隊関連施設は対象外だった建設国債の活用も浮上する。もはや、なりふり構わぬ状況だ。
 財政全般の再建が求められている中、防衛費が将来に大きなツケを回すとなれば有権者の考え方にも影響してこよう。そうしたことも踏まえて説明責任を果たすべきだ。
 日本が安保政策の再構築を迫られているのは確かだろう。防衛力強化が必要だと考えるなら、正面から国民に訴え、取り組み内容と財源を一体的に示して諮るべきだ。臨時国会で具体的な議論もせず、閉会後、短期間のうちになし崩し的に重要なことを決めるのは許されまい。
 そもそも、防衛費増額の必要性に懐疑的な面もある。
 改定される安保関連3文書には、長射程ミサイルなど反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有も含まれる見通しだ。だが反撃能力は、憲法に基づく専守防衛を逸脱する恐れもある。他国との軍拡競争に陥り、不要な緊張感を招く弊害もあろう。
 すべての民意が増額を「当たり前」と考えているわけではない。子ども関連の財源も大幅拡充が求められている。それらとのバランス、優先順位を論じる視点もある。
 現状では、国会での論戦、国民的な議論が決定的に欠けている。拙速に進めてはならない。

高知のニュース 社説

注目の記事

アクセスランキング

  • 24時間

  • 1週間

  • 1ヶ月