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2022.12.12 12:02

【東京舞台さんぽ】「東京新大橋雨中図」 兄嫁と見つめた、隅田川に架かる橋

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 隅田川に架かる新大橋=東京都江東区

 杉本章子さん(1953~2015年)の直木賞受賞作「東京新大橋雨中図」は、明治時代の変わりゆく風景を清新な技法で描いた浮世絵師、小林清親(1847~1915年)が主人公。小説の題名も清親の名作から取られている。


 東京の下町を流れる隅田川に架かり、中央区と江東区を結ぶ現在の新大橋(77年完成)は、主塔から橋桁へケーブルが斜めに張られた斜張橋。清親が画題にした当時は木造の緩やかな太鼓橋型で、江戸の面影を残していた。


 水辺の遊歩道「隅田川テラス」へ下り、右岸を下流の方へ少し歩くと、堤防の壁に浮世絵風のモザイク画が幾つか飾られていた。そのうちの一つは清親の「東京新大橋雨中図」を参考にし、原作と同じように番傘を差した女性の後ろ姿が前景に大きく描かれている。


 この女性は杉本さんの小説で、清親がひそかに思いを寄せる兄嫁の佐江という設定だ。作中の清親は、生計に苦しんで危うい仕事をする彼女に同情していた。兄の家を訪ねた帰り、佐江に無理やり金包みを渡して別れたのが新大橋の見える辺りだった。


 中央区側の橋詰め近くには、「避難記念」という題字と文章を記した大きな石碑がある。傍らの説明板によると関東大震災が起きた際、多くの人が現在の橋に架け替えられる前の「旧新大橋」(12年完成)に避難して命を救われたという。橋上で難を逃れた人々が後に碑を建てた。現在、愛知県の「博物館明治村」に旧新大橋の一部が移築されている。


 江東区側に橋を渡ると、古い石造りの優美な街路灯が立っていた。旧新大橋の古い写真に写っているものとそっくりで、照明部分だけが新しい。日が暮れると優しい明かりがついた。


 【メモ】清親と佐江は隅田川に注ぐ小名木川沿いに東から歩き、萬年橋から北へ折れていった。

(c)KYODONEWS

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