2022.12.12 08:30
介良っ子の86歳大先生、元気に町を診る けら小児科・アレルギー科―ちいきのおと(100)介良(高知市)
「頑張ったね」。予防接種で大泣きする赤ちゃんに優しく声を掛ける森沢弘さん(写真はいずれも高知市介良)
県内ニュータウンの先駆けとなった、高知市介良の中野団地。ここで半世紀にわたり地元っ子を診続ける現役の医者がいる。「けら小児科・アレルギー科」の森沢弘さん(86)。「どうしました?」と診察室で住民を迎える。大先生は、きょうも優しい。
土曜日。午前9時の診察開始とともに、赤ちゃんの泣き声が響く。お母さんは予防接種を受けさせつつ、「左右の股関節のバランスが気になる」。森沢さんは宙を蹴る小さな足をつかまえて曲げ伸ばし。「うん、許容範囲。大丈夫ですよ」
次はお母さんの膝で緊張する女の子。顔を背けて注射針は見ないけど、みるみる涙の玉が膨らむ。大先生が頭をぽん。「うわん」。気持ちがあふれた。
「注射が好きな子はいませんね」。生後1カ月からお年寄りまで、ご近所さんが続々と来院する。11年前に長男の豊さん(57)に継いだ後も、週3日、診察室で住民を迎える。
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「どうしました?」。今日も診察室で住民を優しく迎える
「育児経験の浅い若いママはおろおろ」「家庭はマイカーを備え、ご主人は晩酌も御法度」と当時の本紙はつづる。県住宅供給公社は病院用地を構えたが、医者が見つからなかった。
けら小児科は、村が高知市と合併した翌年の73年春に開院。森沢さんは県立中央病院の小児科医として働き、安芸市出身で東部になじみもあった。「私は酒を飲まないし、お街から遠くても平気」。依頼を快諾し、妻の洋子さん(83)と子ども3人と団地暮らしを始めた。
大忙しの日々が待っていた。「子どもは悪くなる時は急激に悪くなる」。平日は休診を設けず、夜8時まで診療。1人で日中200人を診て、夜中に電話が鳴ると引き受けた。
団地に住む女性(76)は子どもを抱いて何度も駆け込んだ。「『きのうはすみません』とお礼に行くと、先生は『もうきょうになっていましたね』と笑っていた」。今も市外に住む孫まで4代がここに通う。
学校医も引き受け、介良小と3保育園に内科検診や予防接種で訪問。聴診器をつけた大きな耳と、ふざける子にくしゅっと笑う姿は介良っ子のおなじみだった。
団地造成前は2千人余りだった旧介良村は、2011年に1万3700人まで増えた。大先生が見た子は4千人を超える。
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ともに年を重ねて。ご近所さんと百歳体操に励む
体の弱かった子が母になり、「大先生、お久しぶりです」と子どもを連れてきた。新型コロナワクチンの接種でしばらくぶりに会えた顔もいる。
「子どもには、未来がある。村医者、町医者になりたくてここへ来ました。もしそう呼んでもらえるならもう十二分です」(報道部・蒲原明佳)
《ちょっとチャット》
水田歩利さん(11)介良潮見台小5年
ペンギンの向かいにある「クジラ公園」でよく遊ぶ。水飲み場がクジラの形なのでみんなそう呼んでいます。ブランコに乗って、1回転しそうなくらいぐんぐんこぐのが好き。顔に当たる風が気持ちいい。お父さんも子どもの頃から中野団地に住んでいてペンギンの常連。私のお薦めはアイスクリンのソーダ味です。