2022.12.03 08:40
ロマンス詐欺が急増中…SNSで「好きだ」 海外俳優装い送金要求
中国の有名俳優をかたるTikTokのアカウントと、女性に送られたメッセージ、会員証の送金を求めるメールのコラージュ(松本康裕作成)
■楽しい会話
女性は10月初旬、久しぶりに会った友人女性からTikTokを始めるように勧められ、「彼氏の中国人男性と音信不通になったので、つながりがありそうな人をフォローして一緒に捜してほしい」と頼まれた。
50人近い中国人をフォローし、その中にいた1人が「チェン・クン」という実在の人気俳優を名乗る人物。俳優の顔写真を載せており、すぐに「親愛なるファンへ」と中国語のメッセージを送ってきた。
「偽物だろうけど…」。女性は警戒しつつも、ネットの翻訳サービスを使って会話を始め、数日後にはLINE(ライン)で話すようになった。
「夢を大切に」「目標を持って生きよう」などとドラマのせりふのような言葉が語られ、ハートマークも送られてきた。女性は独身で、恋愛からしばらく遠ざかっていたこともあり、「新鮮。話していて気持ちよかった」と振り返る。
1週間ほどすると「日本に行く。ファンクラブの会員証を買えば会えるよ」と言われた。その数日後には「あなたが好き」「真剣な交際をしたい」といった言葉と共に会員証の購入を求められるようになった。
不審に思った女性が、ネットで情報収集すると、外国人俳優を装う「国際ロマンス詐欺」が増えているという記述があった。
「あなたは詐欺師か」。女性が追及すると、「チェン・クン」はナイジェリア人の男だと明かし、連絡を断った。女性は「偽物はまだTikTokにいる。誰もだまされないでほしい」と訴える。
■会員証24万円
どんなふうに金を要求されるのか―。記者もTikTokでこの偽俳優をフォローしてみた。
すぐ「親愛なるファンよ」と英語で送られてきた。記者が「本物? うれしい」とファンのふりをして返すと、早々にLINEへ誘導された。
「ファンなのに会員証を持っていないのか」と言われたため、入手法を聞くと「マネジメントチーム」への連絡を指示。指定されたアドレスにメールすると名前や住所、身分証明書の画像の提供を求められた。会員証の登録や発送に必要だという。
会員証の価格は、中国の通貨で約1万2千元(約24万円)。送金先として韓国の銀行の口座番号が送られてきた。メールには相手の送信時刻が記され、こちらとはマイナス8時間の時差だった。
フォローしてからわずか1日ほど。偽俳優はLINEで「日本に行く」「料理を作って」と送り続けてきた。こちらが「あなたは詐欺師だ」と送ると音信不通に。数日後に確認すると、中国人俳優のアカウントが、ポーランド人女優に変わっていた。
コロナ禍 一因 恋心から被害認めぬ人も
近年、国民生活センターには国際ロマンス詐欺に関する相談が急増している。2019年度は全国で5件だったのが、20年度は84件、21年度は170件に上った。コロナ禍で行動が制限され、SNSに出会いを求めていることが一因とみられる。
高知県内では、19年に外国人パイロットから帰国費用約130万円を求められた女性が、21年には中国で拘束されたという米軍人から保釈費用約40万円を要求された男性が、送金のため郵便局へ。いずれも不審に思った局員が県警に通報し、被害を免れた。
ロマンス詐欺の被害者救済に取り組むNPO法人「CHARMS」(岩手県)の新川てるえ理事によると、だます側の肩書は実業家や芸能人などさまざま。投資やファンクラブ名目で金を要求し、入手した被害者の情報を脅迫や別の詐欺に利用することもあるという。
恋愛感情を抱かせる言葉でマインドコントロールするため、「詐欺だと指摘されても被害者は否定する」と新川理事。高知県警の捜査関係者によると、家族から相談を受けて被害者に事情を聴いても「あの人はだます人じゃない」と言い張る事例があったという。
記者に未遂被害を話した高知市の女性によると、TikTokに誘った友人はネット上で知り合って「彼氏」と呼んでいた中国人と一度も会ったことがなかった。その後、「収入が無く生活が苦しい」という彼氏を助けるために数百万円を送金。連絡が取れなくなった。友人は「彼氏は何か事情があって連絡できなくなっているだけ。だまされたりしていない」と話していたという。
新川理事や県警は「見知らぬ人とつながるSNSは危険もある。お金を要求されたら詐欺と思うことだ」と注意を呼び掛けている。(馬場隼)